13 帝国陣営へ
前半は魔族のルネ視点、後半はマグナ視点です。
四天聖剣。
それは勇者の中で最高位に位置する四人だという。
かつてルネが戦い、なすすべもなく敗れた相手──第二階位勇者のアイラやキーラよりも、さらに格上の相手。
SSSランク冒険者すら凌ぐと言われる、地上最強の戦士たち。
「……面白そうじゃねーか」
ルネは口の端を吊り上げて笑った。
強い相手との戦いは、願ったりかなったりだ。
「最強の勇者が相手でもまったくひるまず、闘争心を燃え上がらせる──それでこそ魔族の戦士です」
ミジャスは満足げにうなずいた。
「ところで──傷を負っているようですね」
「ああ、前の戦いでちょっとな」
ルネは小さく顔をしかめた。
実のところ、まだ全快とはいかない。
特に七人の勇者たちやヴルムとの戦いで、かなり体に負担をかけたせいか、治りかけていた部分まで悪化したはずだ。
「私には治癒呪術の心得があります。よろしければ治して差し上げましょう」
ミジャスの手に赤い錫杖が出現した。
「『ラージヒール』」
呪文とともに、淡い輝きがルネの全身を包みこむ。
「……治った」
まさしく、一瞬だった。
アイラやキーラ、それに七人の勇者たちとの戦いや、その後に続くSSSランク冒険者ヴルムとの連戦──それらで負った傷が、完全に治っている。
「すげーな、あんた……」
「いちおう、魔軍長の一人、『邪神官』ハジャスの娘ですから」
「魔軍長の娘……!?」
微笑むミジャスに、ルネは驚きの視線を向けた。
その後、ルネは彼女に案内され、国境地帯に入った。
天幕が張られた帝国の本陣に行く。
そこには指揮官や隊長クラスらしき数人の騎士がいた。
「これはミジャス様!」
全員がいっせいに跪いた。
「今日は助っ人を連れてきました」
ミジャスが微笑む。
「魔族の戦士ルネ様です。高ランク勇者にも匹敵する猛者ゆえ、頼もしい援軍となるでしょう」
と、ルネを紹介する。
「彼には最上級の便宜をお願いしますね」
「かしこまりました」
帝国軍の者たちは、いずれも従順なようだ。
相手が魔族でも敵意を見せるようなことはない。
皇帝からそう命じられているのだろうか。
「ところで、ラグディアの姿が見えませんが?」
ミジャスが周囲を見回す。
「彼は皇帝陛下のご命令で出撃しました」
「……何ですって?」
ミジャスが眉をひそめた。
「彼をわざわざ出撃させるとは──リオネスにぶつけるつもりですか?」
「そのようです。何せ、あの勇者は超魔獣兵を単騎で屠る化け物ですから」
「……四天聖剣は魔軍長に匹敵する戦闘力を持っているはずです。いかにラグディアといえども──」
ミジャスが形の良い眉をひそめる。
「加勢に行ったほうがいいかもしれませんね」
「誰だよ、ラグディアって」
「帝国には、魔王様直々に秘法を授けてあります。魔族とモンスターを融合させて生み出す超絶の魔獣兵器──超魔獣兵の製法を」
たずねるルネに、ミジャスが答えた。
「ラグディアは、それを人間に応用して生み出された試作実験兵士第一号──勇者との決戦用に開発された超戦士なのです」
※
「我らが天軍に加われ、人間の戦士よ」
土の王の言葉に、俺はポカンとなった。
「汝の力──【虚空の封環】は素晴らしい。その力があれば、魔族を、竜種を、巨人を──その他あらゆる超越者たちを倒せるであろう。そして世界には神だけが残る。唯一絶対の超越者として」
朗々と告げる土の王。
「汝、そのための剣となりて戦え。人間とは、等しく神の子であり、所有物であり、手駒である」
……何言ってんだ、こいつ。
「人間が、神様の道具だっていうの!?」
シャーリーが叫ぶ。
「たかが人間が我ら神の眷属に意見することなどあたわぬ」
傲然と告げる土の王。
「さあ、どうする? 人間よ、我が天軍に入るか、否か──」
「さっきの隕石が王都に落ちたら万単位の人間が死んでたよな? 一方的にめちゃくちゃする奴らが、神様の使い? ふざけるなよ……!」
俺は返答代わりに怒声を返した。
「汝の力を確かめるための試練にすぎぬ」
土の王は平然としている。
「そもそも我らと人間では立っている場所が違う。汝らはしょせん神によって生み出された存在にすぎないことを忘れるな」
「知るか、そんなこと」
俺は土の王をにらむ。
「まさかとは思うが、先の二体──『雷の王』や『氷の王』のように、この我にも敵対する気ではあるまいな。それは神に弓引く行為と知れ」
「……知るか、そんなこと」
言いつつ、俺はごくりと喉を鳴らした。
相手は単なるモンスターや魔族のたぐいじゃない。
神に、属する者。
【ブラックホール】を使えば倒せるとは思うけど、さっきの二体とは違って『天軍に来い』なんて誘ってきている。
俺は、どう対処すべきなんだろう──。





