12 天の尖兵
前半はマグナ視点、後半は魔族のルネ視点です。
「ありがとう、シャーリー。俺一人じゃ無理だった」
俺は彼女に礼を言った。
実際、天馬の飛翔は本当にスムーズだった。
移動ルートも、できるだけ無駄なく、効率よく隕石全体を吸収できるように考えられたものだった。
「あたしだってたまには活躍しないと」
ふふっと悪戯っぽく笑うシャーリー。
「たまには、なんてことはないだろ。ちゃんと活躍してるよ」
俺はそんな彼女に微笑みを返す。
「前のときだって避難誘導とかがんばってたし」
「マグナくん……」
「戦闘だけが活躍じゃない。シャーリーだって立派だよ」
「……えへへ、ちょっと照れるわね」
はにかむシャーリーは妙に可愛らしい。
「隕石を凌いだか」
上空で土の竜が吠えた。
「なかなかやるな、人間どもよ」
「後はお前だけだ」
俺はまっすぐに『土の王』を見据える。
めちゃくちゃやりやがって。
「その力──なるほど、運命を超越せし者。因果律の外に在る力を持つ者、か」
土の王は俺を見て、うなった。
「あるいはこの空間震動の原因は、汝の力が──」
「えっ?」
「神の力を授かった我といえど、うかつには手を出せんな」
俺を見据える土の王の眼光が、わずかに揺らいだ。
気圧されている……のか?
神の兵器が。
この俺に。
「じゃあ、どうする? さっさと逃げ帰るか?」
「我に与えられた使命は、人間どもの戦力調査と選定だ。魔族を滅ぼす──それが神の意志」
と、土の王。
「かつて強大な力を誇った魔族は、今や大きく弱体化している。だが、いつかは力を取り戻すだろう。あるいは汝のように因果の外に在る力を得る魔族が出てこないとも、な」
言って、土の王が翼をたたんだ。
「一方で、太古の神魔大戦によって神は力を消耗し、いまだ全快にはほど遠い。ゆえに神は強き者を求めている。魔を打ち砕くための尖兵を」
ゆっくりと降下してくる。
といっても、まだ俺たちのと距離は数千メートルは離れているだろうか。
当然、【ブラックホール】の射程圏外だ。
「汝こそ、それにふさわしい」
土の王が緑に輝く瞳で俺を見据えた。
すでにその眼光は揺らいでいない。
強い意志を秘め、ただまっすぐに俺へと向けられている──。
「我らが天軍に加われ、人間の戦士よ」
「……はい?」
戦いが始まるかと思ったら、いきなりスカウトされてしまった。
※
魔族のルネは険しい山道を進んでいた。
目的は魔界への帰還。
先の戦いで魔界に帰る手段を失い、人間界に取り残されてしまったのだ。
他の魔族がいる場所に行けば、その手段を見つけられるかもしれない。
あてどもなく、ルネは進む。
と、
「やっと見つけましたよ」
前方から声が響いた。
吹きつける、濃密な瘴気。
人間や野生のモンスターの類ではない。
「お前は──」
魔族。
それも、気配からして上位の魔族だろう。
「あなたを迎えに来たのです、ダークブレイダーのルネ様」
前方が蜃気楼のようにかすみ、一人の女が姿を現した。
「私はミジャスと申します」
長い黒髪に褐色の肌、掘りの深い顔立ちをした美女だった。
「上位魔族様がこの俺を『様』付けか」
「ご謙遜なさらずとも。下級魔族とはいえ、あなたは魔王エストラーム様に一目置かれる存在ですもの」
「魔王……様が?」
眉を寄せるルネ。
「信じられませんか?」
「はい、そうですか、って信じられる話じゃねーだろ」
「確かに」
くすりと微笑むミジャス。
「で? 俺を迎えに来たってのは?」
「そうそう、そちらが本題です」
ぴん、と人差し指を立て、ミジャスが言った。
「この近くには、二つの国の国境があります。そこに人間どもが『ヴェルフ帝国』と呼ぶ国が攻め入っているのです。が、帝国は苦戦を強いられています」
「人間同士の争いなんぞに興味ねーな」
「ふふ、話は最後まで聞いてくださいな」
と、ミジャス。
「ヴェルフ帝国は、古来より『始まりの魔王』様を信仰する国なのです。そして、現皇帝はエストラーム様の配下でもあります」
「魔王様の配下……」
「彼らが人間どもを──勇者たちの戦力をも削ってくれれば、後々の地上侵攻が楽になりますからね。そのための傀儡ですわ」
「ふーん……」
実のところ、ルネは魔王軍により地上侵攻にはそれほどの興味がない。
彼が目指しているのは、あくまでも『強さ』そのものである。
「で、帝国とやらが苦戦してるから、俺にも加勢しろってか?」
「その通りです」
半ば冗談で聞いたのだが、彼女は真面目な顔でうなずいた。
「……なんで人間どもの味方をしなきゃいけねーんだよ」
「魔王様のご意向です」
さすがにそう言われては、ルネも黙るしかない。
「それにたかが人間とはいえ、生半可な相手ではありません。彼らの中には勇者も混じっていますから」
「勇者……だと?」
ルネの表情が変わる。
ミジャスはにっこりと笑い、
「ええ。全勇者の中で最強と称される四天聖剣の一人──リオネス・メルティラートが」





