11 巨大隕石
大気との摩擦で赤熱化しながら、ゆっくりと落ちてくる巨大な隕石。
まだ上空数千メートルにあるみたいだけど、とんでもなく大きいのが分かる。
たぶん直径三キロから四キロ。
もしかしたら、それ以上──。
「なんだよ、あれ……!?」
俺は呆然と隕石を見上げた。
あんなものが落下したら、王都は間違いなく壊滅する!
「人間よ、力を示せ──」
空から、厳かな声が響いた。
隕石のさらに上に、何かが浮かんでいる。
「まさか、あいつも……!?」
全身が土でできた、巨大な竜。
雷の王や氷の王と同じ神の兵器──『天想機王』だろうか。
「我は『土の王』」
土竜が告げた。
「人間の力を試すため、神より遣わされた」
やっぱり、こいつもさっきの二体の同種か。
いや、同種──なんだろうか。
土の王から感じるすさまじいプレッシャーは、雷の王や氷の王の比じゃない。
あるいは、あの二体よりも格上の兵器かもしれない。
「これは我が力の一端。さあ対処してみせよ、人間ども」
土竜が言い放った。
──って、この隕石はこいつが作ったのか。
「とんでもないことをしてくれるな……」
俺はぎりっと奥歯を噛みしめた。
隕石が落ちたら、どれだけの被害が出ると思ってるんだ。
「人間どもがどれだけ死のうと、大した問題ではない。汝らは放っておいてもすぐに繁殖し、あっという間に増えるであろう?」
あまりといえば、あまりな言い草だった。
本当にこいつは神の兵器なのか?
いや──神様っていうのは、案外人間のことをそんな程度にしか考えていないのか?
土の王は俺たちを悠然と見下ろしていた。
特に攻撃を仕掛けてくる様子はない。
人間が、隕石にどう対処するのかを見極めるつもりだろうか。
ごおおおっ……!
その隕石はかなり近づいているみたいだ。
あまりにも大きくて、距離感がつかみづらいけど。
徐々に、確実に。
王都に壊滅的な被害をもたらす巨大な岩塊は距離を縮めてくる──。
俺はすでに【ブラックホール】を展開済みだ。
射程内に入り次第、隕石を吸いこんでやる。
だけど──、
「吸いこめるのか、全部……?」
こみ上げる、不安。
隕石の大きさは直径三キロから四キロってところだ。
【ブラックホール】の射程よりも大きい。
「あんなにデカくちゃ、俺の魔法でも破壊できない……」
「わたしの魔法で防御するのも無理です~」
クルーガーとアンが言った。
当然、ヴルムさんやレイア、ブリジットにもどうにもならないだろう。
SSSランク冒険者たちは卓越した力を持っているけど、今回は対象のサイズが大きすぎる──。
「それなら、移動しながら吸いこんでいけばいいんじゃない?」
シャーリーが俺に言った。
「えっ」
「あたしがマグナくんを天馬に乗せて空を飛ぶわ。スキルの効果範囲に収まるように螺旋状に移動しながら、全部吸いこむのよ」
「……なるほど」
吸いこむ途中で隕石が砕けて、吸いこみ切れないほど広範囲に落ちるかもしれないし、吸引の途中で気流が乱れて、天馬の方が墜落してしまうかもしれない。
「大丈夫なのか? 隕石にある程度接近しなきゃいけないし、もし上手くいかなかったら……」
「危険なんてないわよ。あたしはマグナくんを信じてる」
シャーリーが微笑んだ。
「何度も君の力を見てきたもの。今回はあたしにも手伝わせて。ね?」
実際には、リスクは──ある。
だけど、試してみる価値はある。
少なくとも、このままじゃ王都は壊滅だ。
「──分かった。頼む」
俺はシャーリーの天馬に乗せてもらい、空高く飛んだ。
「隕石に近づくと、乱気流になるかもしれない。しっかりつかまってね」
「ああ」
ギュッと腰に手を回した。
ほっそりとした腰は、やっぱり女の子なんだなぁ、って思う。
見上げれば、摩擦熱で真っ赤になりながら落ちてくる隕石が見える。
すさまじい巨大さに、本能的な恐怖感を呼び覚まされる。
きっとシャーリーだって怖いはずだ。
だけど、彼女の手綱さばきにはまったく迷いがない。
周囲の風圧がどんどん増し、気流の乱れも大きくなっていく。
それでも天馬は、上下左右に揺れながらも、まっすぐに飛ぶ。
「あたしはあたしの役目を果たすわ。だから、マグナくんも──」
「ああ、任せろ」
背中越しに会話を交わす俺たち。
そのとき、ちょうど射程距離に到達したらしく、隕石の一部が大きく割れ始めた。
巨大な岩の表面に無数の亀裂が走る。
ぼろぼろと無数の欠片が──といっても、直径数十メートルはありそうだが──が、降り注ぐ。
しゅおんっ……!
落ちてくる欠片を余さず吸いこみながら、俺たちは隕石へ接近した。
轟音とともに、隕石の四分の一くらいが割れ、黒い魔法陣の中に一瞬で吸いこまれた。
それでもまだ、大部分が残っている。
「シャーリー、移動を頼む!」
「了解よ!」
シャーリーが手綱を軽快に操り、天馬を方向転換させた。
【ブラックホール】の効果範囲──直径二キロの円で隕石を塗りつぶすような感覚で、螺旋状に空中を翔けていく。
射程内に捉えた部分が次々と割れて、【ブラックホール】に吸いこまれていく。
「きゃあっ……!?」
そのとき、天馬が大きく揺れた。
気流が激しくてバランスを崩したのか!?
「シャーリー!」
「平気よ! あたしは天馬騎士団の団長! これくらいでっ!」
天馬の首筋を手で軽くたたき、気合を入れるようにして、無理やり体勢を立て直した。
シャーリーの腕か、天馬がそれだけ優れた運動能力を持っているのか、あるいはその両方か。
墜落するかと思った天馬は、空中でどうにか踏みとどまった。
「あと少し、マグナくんっ!」
ふたたび隕石に向かって、俺たちは飛ぶ。
ほどなくして──。
あれだけ大きかった隕石は、すべて【ブラックホール】に吸いこまれた。
地上までの距離は、数百メートル程度、ってところか。
あらためて見ると、けっこう際どかったけど──。
どうにか、凌いだぞ。





