9 SSSランク冒険者たち
SSSランク冒険者クルーガー視点です。次回からマグナ視点に戻ります。
くおおおおおおおおんっ。
甲高い鳴き声を上げ、氷の王が九つの頭をいっせいにもたげた。
「貫き、凍らせてやろう──矮小なる人間ども。これが神から授かりし力だ」
次々に吐き出される青いブレス。
その中身は、巨大な槍さながらに尖った無数の氷柱の集合体だ。
「『ウィンディシールド』!」
「『加護の防壁』!」
クルーガーが風圧の盾を作る呪文を、アンが神の加護による防御を、それぞれ発動させる。
二重の防壁が氷のブレスを受け止め──、
ごうっ!
それらをまとめて突き破り、無数の氷柱が降り注ぐ。
「ちっ、止められないか──」
クルーガーは舌打ちまじりに迎撃用の呪文を唱え始める。
「いや、数はかなり減らした」
「これならボクとヴルム師で迎撃できるっ」
すかさず前進する老剣士と武闘家娘。
「ひゅうっ……!」
二人は同時に、鋭い呼気を吐き出した。
気功武闘法。
呼吸をコントロールすることで、身体機能を増幅させる武術だ。
双剣が、拳と蹴りが、音速でうなり、氷柱をすべて打ち砕いた。
さらに、
「攻撃を放った瞬間なら、無防備」
最後方で構えていたブリジットが、ここぞとばかりに数百の矢をまとめて放つ。
それらが九頭の一つをさながら針山のように射抜いた。
くおおおおおんっ。
少しは効いたのか、苦鳴のような声を上げる氷の王。
「手を止めるな。このまま攻勢に転じるぞ──」
クルーガーが護符を掲げた。
──攻撃は、一時間以上にも及んだ。
押しているのは、確実にクルーガーたちだった。
だが──、
「いかんのう……再生能力がこっちの攻撃力を上回っておる」
「しかも、疲れた様子もないしね……これじゃ、戦いが長引けば長引くほど、ボクたちのスタミナが──」
うなるヴルムとレイア。
そう、壊しても、砕いても──氷の王はすぐに再生してしまうのだ。
「ならば、退くか? それも一つの選択だ」
ブリジットが提案した。
「ですが、あの兵器の攻撃はかなり広範囲に及びます。住人の避難が終わるまで、まだもう少しかかるんじゃないでしょうか」
アンが言った。
「なら、考えるまでもねぇ。戦闘続行だ。たとえ倒せないにしても、ここで食い止める」
クルーガーが凛と告げた。
「俺たちのすべての戦術を出し尽くして、な」
と、仲間たちを見回す。
「やれやれ、年寄りにはなかなかキツい相手じゃわい」
「だいじょーぶ。ボクは若いから。ヴルム師の分までがんばるよっ」
「まあ、若いモンだけに任せるのもなんじゃし、ワシももう少し気張るかのう」
言って、ヴルムはレイアと笑いあう。
「いくぞ、レイアの嬢ちゃん。ワシの速度についてこれるか?」
「とーぜんっ!」
次の瞬間、二人の動きが閃光と化した。
もはや常人には視認すらできない、超速の動き。
ヴルムの剣が、斬る。
レイアの拳が、砕く。
「はああああああああああああああああああっ!」
裂帛の気合いが、二重奏のように響き渡った。
浴びせられるブレスをかいくぐり、次々に繰り出される九つの首の攻撃をすべて避け、何千何万という攻撃を叩きこむ。
一糸乱れぬ剣と拳による連携攻撃奥義──『閃花繚乱』。
すさまじい破壊音が連続して響き渡る。
氷の王の頭部が次々と砕かれ、吹き飛んでいく。
「駄目だ……すぐに再生しやがる」
クルーガーはぎりっと奥歯を噛みしめた。
確かにヴルムとレイアのコンビネーションは圧倒的だ。
並のモンスターなら跡形も残らず、億の肉片に刻まれるほどの攻撃だ。
だが、それでもなお──氷の王は再生する。
「ちくしょう、こいつを倒す手立てはないのかよ!?」
もちろん、クルーガーも、ブリジットも、二人の連携の間を縫って攻撃を叩きこんでいる。
アンは強化呪文を次々にかけて、四人の攻撃をサポートし続けてくれている。
それでも、倒せない。
まさしく、不死身。
まさしく、不可侵──。
「くっ……」
さすがにヴルムとレイアの動きに疲労が見え始めた。
一瞬、二人の体勢が崩れ、そこに氷の王のブレスが襲いかかる。
そのときだった。
しゅおんっ……!
ブレスが──連なった無数の氷柱が、一瞬で消えうせる。
「なっ……!?」
驚いて振り返るクルーガー。
そこには、一人の青年が立っていた。
体の前に黒い魔法陣を展開している。
それが、氷柱をまとめて吸いこんだのだ。
「遅れてごめん──」
頼もしい味方の登場に、クルーガーは表情を緩めた。





