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8 虚空の焔2

前半はマグナ視点、後半は冒険者クルーガー視点です。

「管理者ってどういう存在なんだ? お前が【ブラックホール】の力を操っている……ってことか?」


 俺は黒いローブの人物(?)──【虚空の焔(ドゥームフレア)】を見つめた。


 この世界の住人は、基本ゆるい感じだ。

 だからといって、油断はならない。


 しかも、この世界では俺のスキルは使えない。

 警戒を怠らず、奴の一挙手一投足に注目する。


「あ、いえいえ。わたくしは【虚空の領域】の六つの層を管理──各チームの統括や各層の環境整備などの責任者というだけですよ。【虚空の封環(ブラックホール)】の力を支配しているのは、あくまでもあなた自身です。王よ」


 と、物腰柔らかな態度で語る【虚空の焔】。

 敵意はなさそうな態度だ。


『王』──か。

 俺は奴の言葉を内心で繰り返した。


「あなたは運命の超越者として選ばれた者。その力を具象化した世界──【虚空の領域】の支配者たる王。ですが、完全な支配権を得ているわけではありません」

「えっ?」

「その支配権を確定させるものこそが、六つの【王の証】です。すべてをそろえ、真のスキル保持者(ホルダー)に──」


 運命の超越者?

【虚空の領域】の支配権?


 どうも、こいつが言っていることは説明足らずでよく分からないな。


 なんとなくすごそうなイメージだけは伝わるけど、具体性がなさすぎる。

 まるでスキルの説明メッセージみたいだ。


「ああ、普段の説明メッセージはわたくしが書いてるんですよ。なかなかウィットに富んでるんじゃないかと自画自賛してる次第で」


 ──って、お前の文章かよ、あれ!?


「すべての存在は【運命】に縛られます。それは【因果律】とも呼ばれ、あらゆる存在を従わせる絶対の(ルール)なのです」


【虚空の焔】が壮大っぽい話を語る。


「その、できればもうちょっと噛み砕いて説明してくれないか?」

「ですが、まれに──そのルールに縛られずに行動できる存在が現れます。それこそが『因果律の外に在る力』。その行使者です」


 人の話聞いてないな、こいつ。


「もしかして、マグナくんが──」


 シャーリーが横からたずねた。


「いかにも」


 重々しくうなずく【虚空の焔】。


「あなたは神や魔王ですら逃れられない絶対の理にすら、縛られない存在。すべてを超越した力を持つ者、なのです」

「なんで、俺が……?」


 選ばれたんだ?

 英雄でも勇者でもない、この俺が。


「いずれお教えしましょう。すべての力を解放せしときに──あなたが最下層である第六層までたどり着いたときに」


 ……そのときは、もうちょっと具体的な説明を頼むぞ。


 たぶん、今聞いても教えてくれないんだろうし。




「そういえば、ここって外とは時間の流れが違うんだよな」


 少なくとも第一層はそうだった。

 領域内には数時間から半日程度しかいなかったのに、外では数日が過ぎていた。


「急いで戻りたい」

「では、案内いたしましょう」


 と、【虚空の焔】。


「お急ぎなら、時間調整もしておきましょう。あなた様がここに来た直後の時間にお戻しすればよろしいですか?」

「ああ、助かる」

「ただ時空間を完璧に制御することは難しいので、数分ほどの誤差は出るかもしれませんが……」

「──分かった」


 とにかく脱出しないと。

 ヴルムさんたちの援護に行かないと──。


    ※


「氷結系の高ランク魔法を連発してくる上に、防御が固く、再生能力持ち……ちっ、やっかいな奴だぜ」


 SSSランク冒険者、『烈風帝』クルーガーが舌打ちした。


「こっちだってSSSが三人もそろってるんだ。簡単には負けないよっ」


 がつん、と胸の前で拳を打ち合わせ、威勢よく叫んだのは『闘鬼拳』のレイア。

 東部大陸風の赤い衣装は太もも付近に深いスリットが入っており、艶めかしい。

 流麗な黒髪は頭頂部で団子のように結っていた。


「たとえ相手が神の兵器であろうと……わたしは多くの人を守るために戦います。それが僧侶の──そして冒険者としての務めです」


 健気に告げたのは『蒼の聖女』アンだ。

 あどけない顔立ちに清楚な青い僧衣がよく似合う。


「いや、三人じゃない。五人」

「向こうは片付いた。ワシらも加勢するぞい」


 新たに二人のSSSランク冒険者がやって来た。


 成層圏の彼方までも狙撃すると言われる『魔弾の射手』ブリジットと、第二階位竜をたった一人で屠った老剣士『炎竜殺し』のヴルム。

 頼もしい援軍の到着だった。


 だが──、


「……あいつは、どうした?」


 マグナの姿が見えない。


「彼はちょっとしたアクシデントで、の」


 ヴルムが肩をすくめた。


「行方が分からない。少なくともこの戦いに合流できるかは未知数だよ」


 説明しつつ、弓を取り出すブリジット。


「ふん、まあいい。Sランクなんかに頼るかよ。あのデカブツは俺たちSSSランク冒険者の獲物だ」


 クルーガーが護符を構えた。


「前衛はヴルムさんとレイア、中距離から俺が、遠距離からブリジットがそれぞれ牽制込みの攻撃、アンは全体の援護だ。いいな!」


 と、指示を出し、作戦が始まった。


 それは、彼らSSSランク冒険者にとってさえ、決死の作戦だ。

 だが、誰一人として退く気配はない。


 退くはずがない。

 退けるはずがない。


 人々を守るため、必ずこの強敵を倒す。


 SSSランクの誇りにかけて──。

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