7 虚空の焔1
前半は勇者アイラ視点、後半はマグナ視点です。
「太古、魔族は今よりもはるかに強大な力を誇っていたそうだよ」
アイラは、ベアトリーチェの話を聞いていた。
彼女は双子の弟キーラとともに、勇者の中では高位の存在──『第二階位勇者』だ。
とある使命を受け、最強の勇者『四天聖剣』の一人であるリオネスとともに、ここまで来た。
ヴェルフ帝国の勢力圏内である、危険な国境地帯に。
「それを討つために、神はいくつもの兵器を作り出した。『天想覇王』『天想聖王』、『天想機王』──それらは大地を割り、海を蒸発させ、空を裂き、まさしく無双の力を誇ったという」
謳うように告げるベアトリーチェ。
「その神の兵器とやらが、空間震動現象によって地上に現れる……と?」
たずねたのはリオネスだ。
「ああ。太古の戦いで異空間に吹き飛ばされた『天想機王』が、この現象で地上に戻ってきたみたいだ。しかも──人間の町を襲おうとしているようだねぇ」
「なぜ、神の兵器が人間を?」
アイラが眉をひそめる。
「さあね? ただ、この空間の揺らぎは明らかに攻性反応だ」
言って、ベアトリーチェはにやりと笑った。
「案外、神は人間が思っているほど──人間の味方じゃない、ってことじゃないかねぇ」
「えっ」
「神にとっての人間ってのは、ゲームの駒とか、目的のための操り人形とか……そういう類なんじゃないかと思ってねぇ」
「聞き捨てならんな」
リオネスが血相を変えた。
普段冷静な彼にしては珍しく、怒気をあらわにしている。
「我ら勇者は神の意志のもとに戦う。お前も勇者のはしくれなら、神を否定するような言葉を吐くのは看過できんぞ」
「否定なんてしてないさ。あたしの個人的な意見だね」
ベアトリーチェは四天聖剣の怒気を涼しげに受け流している。
「貴様……」
リオネスが席を蹴って立ち上がる。
「おやおや、触れちゃいけない話題だったかねぇ」
「勇者ならば当然だ。先ほどの言葉は撤回してもらおう」
「信心深いねぇ。それとも──」
ベアトリーチェの瞳が妖しい光を発した。
「他の理由かい?」
「何?」
「あんたのおじいさんは、かの有名な剣聖ザイラスだろう? その師匠は、実は魔王だったんだってね? それをあんたはひそかに恥じている。だからこそ、『神の元で戦う勇者』という自身の立場に強くこだわる──」
「見透かしたようなことを」
リオネスが苦虫をかみつぶしたような顔になった。
あるいは、当たらずと言えども遠からず、なのだろうか。
「──むっ」
そのとき、リオネスの表情が変わった。
「敵だ。アイラ、キーラ、お前たちはベアトリーチェの護衛を」
言うなり、外に飛び出すリオネス。
窓の外には言葉通り、帝国兵がずらりと並んでいた。
とはいえ、リオネスの実力を知っているのか、囲むだけで仕掛けようとはしない。
──否。
「やれやれ、強そうな相手とはなるべく戦いたくないんだけど──皇帝陛下の命だからね」
一人だけ、ひょろりとした外見の兵士が進み出る。
年齢は四十過ぎくらいだろうか。
頬がそげたような、やせた顔立ちだ。
「超魔獣兵を何体も倒している奴を倒してこい、ってさ」
「他の兵士とは気配が違うな」
珍しく警戒した様子で問うリオネス。
「何者だ、お前は」
「僕はラグディア」
中年戦士が陰のある笑みを浮かべた。
「……魔族か?」
言って、リオネスが眉をひそめる。
「だが、お前の中には人間の気配もある。魔族と人間の間に生まれた、半魔族……?」
「少し、違うね」
ラグディアが笑った。
すらりと腰の剣を抜く。
リオネスも手にした槍──『奇蹟兵装ガブリエル』を長剣に変形させた。
「僕は、人間も魔族も超越した存在。皇帝陛下から『調整』された──特別製の兵士なのさ!」
吠えて、突進するラグディア。
(速い──!)
その速度は、アイラの目にはほとんど残像しか映らない。
繰り出された剣が、リオネスの胸元を切り裂いた──。
※
「お前は──」
突然現れた黒いローブ姿の人影を見据える俺。
何度か見た人物(?)だった。
【ブラックホール】の中にたたずんでいた人影。
ここの住人なのか?
あの人形たち──様々な【チーム】の一種なのか?
それとも──。
「そういえば、【虚空の焔】とかって表示されてたな」
「いかにも。わたくしはこの領域の管理者【虚空の焔】です」
人影は俺に向かって、ぺこり、と頭を下げた。
不気味な雰囲気の割に、物腰柔らかな感じだ。
「ここの管理者……?」





