6 ふたたび、領域へ
「えっと、ここはどこなの……?」
シャーリーが灰色の世界を見回す。
そっか、キャロルとエルザは『第一層』のほうに来たことがあるけど、彼女はここを訪れるのは初めてだもんな。
「ごめん。俺のスキルの影響でシャーリーもここに吸いこまれたんだ」
と、説明する。
俺が【虚空の領域】に吸いこまれる際、彼女は巻き添えになる形で一緒に吸いこまれてしまったのだ。
「じゃあ、ここがマグナくんのあのスキルの内部空間ってこと?」
「ああ、前にキャロルやエルザもここに来たことがある」
正確には、二人が来たのは第一層だけど。
「そっか。じゃあ……ここには、あたしとマグナくんの二人っきりってことね」
つぶやくシャーリー。
「だな」
「ここには、あたしとマグナくんの二人っきりってことね」
いや、なんで二回も言ったんだ?
おまけに、ちょっと顔を赤らめてるし。
「……とにかく出口を探そう」
と、俺。
外界には、もう一体の『天想機王』がまだ残っているはずだ。
早く戻って加勢しないと。
と──、
どどどどどっ!
土煙を上げ、十数体の人形が近づいてきた。
「ん、あいつらって……?」
身長は一メートル程度、いずれも黄色のカラーリングの人形たちだ。
「王様でございますね?」
「お初にお目にかかります。我らは【レベルアップ評価チーム】です」
と、名乗るそいつら。
「レベルアップ……評価?」
回収チームや転送チームなど、【ブラックホール】内にはいくつかのチームが存在することは知っている。
けど、【レベルアップ評価チーム】というのは初めて会ったな。
「評価って何をするんだ?」
「その名のとおりでございます」
「王様が吸いこんだものに点数をつけるのでございます」
「点数?」
首をかしげる俺。
「点数とは、簡単に言えば経験値でございます」
「これが一定数に達すると、スキルレベルが上がるのでございます」
「評価は、対象の強さやレア度などに加え、そのときのシチュエーションも加味されるのでございます」
なるほど、スキルレベルが上がる基準をこいつらが決めているってことか。
「たとえば、『大きなハンデを負って戦った』──燃えますよね、ハンデ戦!」
「お、おう……?」
「あるいは、『多くの人を救った』──正義のヒーローみたいでかっこいいですよね!」
「お、お、おう……?」
一方的に熱く語る【レベルアップ評価チーム】の面々に、俺は若干引き気味だった。
「ねえ、マグナくん。出口の場所を聞いてみたら?」
シャーリーが言った。
あ、それもそうだな。
「俺たち、ここに来るつもりじゃなかったんだ。アクシデントで迷いこんでしまって……外の世界への出口がどこにあるか、知ってたら教えてくれないか?」
「外界への出口なら虚空神殿にあるのでございます」
「ここをまっすぐ行った先にあるのでございます」
街道を指さす人形たち。
「ちなみに、神殿は五つ並んでいて、四つは『ハズレ』でございます」
「『ハズレ』に入ると、別の場所に転移させらるので注意が必要でございます」
「……なんでわざわざ『ハズレ』があるんだよ」
そういえば、第一層にもあったな『ハズレ』って。
「『正解』の神殿は向かって一番右端でございます」
「では、王様。我々はこれで」
「また何かを吸いこんだら、レベルアップ評価させてもらうのでございます」
言って、人形たちは去っていった。
あいかわらずスキル内の住人(?)のノリは謎である。
「……と、とりあえず行きましょうか」
「お、おう」
俺たちは顔を見合わせ、出発する──。
「……って、あいつは!?」
前方に黒い影がたたずんでいた。
炎を思わせるローブをまとった、人影。
フードの奥から赤い眼光が二つ、俺をまっすぐに見据えている。
あいつだ──。





