4 VS雷の王
前方では、ヴルムさんと雷の王の戦いが続いていた。
「どうした、人間よ。汝の戦闘力を見せてみよ」
黄金の鳥型兵器が両翼から稲妻を降らせ続ける。
ひたすら攻撃の手数で圧倒する戦術か。
「ひゅうっ……ぅぅぅっ……!」
ヴルムさんは細い気を断続的に吐き出し、身体能力を連続で加速。
斬撃で空気の断層を作り、雷を防ぎつつ、後退する。
「逃げても無駄だ」
羽ばたき、老剣士の逃げ道を塞ぐように雷撃を放つ雷の王。
完全に狙い撃ちにされていた。
何せ相手は戦闘における絶対死角ともいえる、空中から好き放題に攻撃できるのだ。
空を飛ぶ手段を持たないヴルムさんは、あまりにも不利な戦況だ。
だけど──、
「逃げる? 違うな」
ヴルムさんが、ふいにニヤリと笑った。
そうか──。
その意図を、俺はすぐに理解した。
逃げているんじゃない。
ヴルムさんは『誘導』しているんだ。
俺たちがいる方向に、雷の王を。
そうやって少しでも、俺のスキル射程に近づけようとしているんだろう。
「シャーリー!」
「分かっているわ。少しでも──一秒でも早く、敵のもとへ!」
雷撃の爆風で乱れる気流の中、彼女は必死で天馬を操っている。
さすがに騎士団長だけあって、その手綱さばきは一級だ。
ほとんど揺らさず、天馬は衝撃風を切り裂くように翔けていく。
「むっ、新手か」
雷の王は、接近する俺たちに気付いたようだ。
「だが、無駄だ。すべて撃ち落としてくれよう」
放たれた雷が、俺たちに迫る。
しゅおんっ……!
俺が展開している【ブラックホール】が、それらをすべて吸いこんだ。
「むっ!? これは──」
常に超然としていた雷の王が、初めて戸惑いの声をもらす。
ふたたび放たれる雷。
それも俺のスキルはすべて吸いこんだ。
さらに数十、数百と放たれる雷が、黒い魔法陣の中に消えていく。
たとえ神の兵器だろうと、【ブラックホール】の吸引防御は破れない。
「馬鹿な!? 人間ごときが、因果律の外に在る力を──運命をも超えた力を手にしているというのか──」
雷の王が驚愕の声を上げた。
その瞬間、射程圏内である500メートルまで接近できた。
行け、【ブラックホール】──!
しゅおんっ……!
「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁっ……!」
雷の王は黒い魔法陣の中に吸いこまれ、消えていった。
「……神の兵器もおかまいなしじゃな」
「あいかわらず規格外のスキルだ」
こちらを見上げて呆れたような顔のヴルムさんと、小さく苦笑するブリジット。
シャーリーが天馬を操り、俺たちを地上に下ろしてくれた。
「怪我はないですか、ヴルムさん」
俺は老剣士に駆け寄る。
甲冑のあちこちが焼け焦げ、体のあちこちに軽い火傷を負っていた。
とはいえ、致命傷には程遠い感じだ。
そのことにホッとする。
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スキルレベルアップ。
【虚空の封環】がLV24に上がりました。
【虚空の封環】がLV25に上がりました。
(中略)
【虚空の封環】がLV50に上がりました。
【虚空の領域・第二の扉】の開閉が可能になりました。
扉を開きますか? YES/NO
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「レベル上がりすぎだろ!?」
俺は思わずツッコんでしまった。
LV○○に上がりました、ってメッセージが多すぎるせいか途中が省略されている。
「ん、第二の扉?」
虚空の領域って前にも行った【ブラックホール】内部だよな?
興味はあるけど、今はもう一体のモンスターを倒すことが先決だ。
「『NO』で──」
言いかけたところで、ふと気づく。
黒い魔法陣のような形をした【ブラックホール】の中心部に、何かが浮かんでいる。
「あいつは──」
黒い炎のような人影。
しかも以前より姿が鮮明になっていた。
炎に見えるのは、そいつが身にまとっているローブのようだ。
一体、何者なんだろう。
知りたい──。
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術者の意志を確認。
【虚空の焔】との対面シークエンスを実行します。
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「えっ?」
嫌な予感がした。
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対面シークエンス実行のため、術者を【虚空の領域・第二層】に移送します。
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「お、おい、これってまさか──」
次の瞬間、魔法陣から突風が吹き荒れる。
「う、うわっ……!」
まるで、風の鎖だ。
俺はそれに絡め取られ、ものすごい力で引き寄せられる。
さらに、
「きゃあっ!?」
すぐ近くで聞こえる悲鳴。
この声は、シャーリーか!?
次の瞬間、俺はシャーリーとともに扉の向こう側へと吸いこまれていく──。





