3 天想機王
前半はマグナ視点、後半はSSSランク冒険者クルーガー視点です。
ヴルムさんが双剣を手に突進する。
「矮小なる人間が、また我に向かってくるか」
鳥の怪物はヴルムさんに向き直った。
「消えろ」
雷を放つ。
「ひゅうっ」
ヴルムさんの双剣がひるがえった。
鋭い斬撃は空気の断層を作りだし、雷撃を防いでしまう。
前に超魔獣兵迎撃戦で見せたのと同じ技だ。
飛び道具は、ヴルムさんには通用しない──。
「ちぇすとぉっ!」
気合の声とともに、老剣士が二本の剣をX字を描くように振り下ろす。
「……戦力評価を修正。人間にしては戦闘力が高い個体のようだ」
つぶやき、鳥のモンスターは羽ばたいた。
間一髪でヴルムさんの斬撃を避け、大きく飛び上がる。
「むっ……」
ヴルムさんは追撃に移れず、その場で足を止めた。
さすがに相手が空にいては剣が届かない。
「我は『雷の王』」
鳥型のモンスターが厳かに告げた。
「神が作りし対魔族兵器『天想機王』の一体」
「対魔族兵器……じゃと?」
ヴルムさんが眉を寄せる。
「それがなぜ人間の都を襲う」
「来たるべき魔族との決戦のため、人間どもを選別せよ、と神は仰せだ。強き人間をあぶりだす、そのために……我はこの地に攻撃を仕掛けた」
「何を、言って……?」
「さあ、我に立ち向かってみせよ。そして、強さを見せてみよ」
告げて、両翼から稲妻の雨を降らせる雷の王。
ヴルムさんは双剣の斬撃で空気の断層を作り、それらをことごとく遮断する。
「そんな程度の技でいつまでも防ぎきれると思うな」
「ならば、これで」
さらに、稲妻の数が増した。
十本から二十本、そして三十、四十──。
駄目だ、相手のほうが手数が多すぎる。
しかも敵が空にいる以上、ヴルムさんの攻撃は届かない。
これでは、いずれ──。
「くおおおっ、こ、この威力は……!」
とうとう雷撃を防ぎきれなくなり、ヴルムさんが吹き飛ばされた。
「シャーリー、もっとスピードは出ないのか!?」
焦る俺。
敵との距離はあと二キロ弱だ。
俺が走るよりは速いとはいえ、まだ射程内に届かない。
「爆発で気流が乱れて、なかなか……」
シャーリーがもどかしそうに告げた。
「ならば──マグナのスキルの射程に入るまで、私がヴルム師を援護するさ」
ブリジットが弓を取り出し、構えた。
放たれる数百の矢。
不安定な馬上だというのに、信じられない速度で矢をつがえては放ち、また矢をつがえる。
さすがは『魔弾の射手』。
まさしく雨のように降り注ぐ矢群が『雷の王』を襲う。
「無駄だ」
だが、奴の周囲を覆う雷撃が障壁となり、すべての矢は燃え尽きてしまう。
「矢では無理か……!」
ブリジットが険しい表情でうめいた。
彼我の距離は一キロほど。
あと少しだけ持ちこたえてくれ、ヴルムさん──。
俺は祈るような気持ちで戦況を見つめた。
※
「我は『氷の王』。神が作りし対魔族兵器『天想機王』の一体」
クルーガーたちの前で、九頭の蛇の怪物はそう名乗った。
サポートとして用意されたSSやSランク冒険者たちは、敵の一撃で全員吹き飛ばされている。
立ち向かえそうなのは、彼と武闘家のレイア、僧侶のアンの三人だけだ。
「神の兵器……だと」
「聞いたことがあります……」
アンが震える声でつぶやいた。
「太古、神と魔王との戦いにおいて使用された聖なる兵器群。『天想機王』や『天想覇王』──あれは、その一体なのでしょう。神話レベルの強大な兵器です」
「神話レベル……ね」
ふん、と鼻を鳴らすクルーガー。
「人間は、神には逆らえない……ここは撤退しましょう」
アンはおびえた様子だ。
僧侶である彼女にとって、神の兵器と戦うというのはそれだけで畏れ多いことだろう。
だが、クルーガーは違う。
「あいにく俺は信心が薄いんでな」
言って、魔力を集中する。
「奴らは都を襲ってるんだ。相手が神だろうが魔だろうが、退けるかよ」
「ボクも同じ。それに、相手が強ければ強いほど燃えるってもんでしょ」
がつん、と両拳を胸の前で合わせ、レイアが威勢よく叫ぶ。
「来たるべき魔との戦いのため、神は強き人間を求めている。手駒とするために──汝らの力を示せ、人間たちよ」
氷の王が九つの頭を揺らした。
次回はふたたびマグナ視点に戻ります。





