7 第一波
──異変は、突然だった。
ごごごごごごごごごぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおんっ!
大音響とともに、周囲が激しく揺れた。
会議室の壁が、床が、天井が、断続的に震えている。
「なんだ……!?」
地震じゃない。
まさか、これって──。
「空間震動、だな。上空七百メートルくらいの地点で、とんでもない勢いで魔力が増大しているのを感じる」
クルーガーが椅子を蹴って立ち上がった。
さすがに魔力感知能力が高いようだ。
──っていうか、空間震動って。
「いきなり来るとはのう」
「私たちは魔獣災害に備えればいいんだな、バーンズさん?」
ヴルムさんとブリジットがバーンズさんを見た。
「ああ、この場の冒険者たちはすぐに外へ。魔獣が現れたときには迎撃を頼む。その他の行動については、私の方から指示する」
「おっけー」
「了解しました」
レイアとアンもうなずく。
「では、あたしは市民の避難誘導のために、天馬騎士団の詰め所へ」
と、シャーリーが部屋を走り去っていった。
俺たちも会議室を飛び出し、ギルド支部の外に出る。
「なんだ、あれ……!」
上空に赤い渦巻のようなものが浮かんでいた。
あれが──空間震動現象!?
そこから広がる稲妻が周囲の建物に触れると、石壁が紙のようにひしゃげ、砕け、吹き飛んでいく。
「きゃあぁぁぁぁっ……」
「う、うわぁっ、助けて……」
「痛い……痛いよぉぉぉぉ……」
人々の悲鳴があちこちからこだましていた。
降り注ぐ瓦礫が、人々を傷つけていく。
「くそっ……!」
俺はすぐに飛び出した。
「【ブラックホール】、吸引対象に瓦礫を追加!」
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術者の設定変更意志を確認しました。
スキルの吸引対象を『術者が敵と認定した者』『術者や術者が仲間と認識した者に対する攻撃』及び『有効射程内の瓦礫』に変更します。
────────────────────
空中にメッセージが表示されるとともに、
しゅおんっ……!
半径500メートル内の瓦礫が一瞬で吸いこまれる。
だけど、瓦礫が降り注いでいるのは広範囲だ。
他の場所にも行かないと──。
周囲を見回すと、ブルムさんが剣で、レイアが拳で、ブリジットが矢で、それぞれ瓦礫を砕きまくっていた。
さすがにSSSランク冒険者だけあって、すごい破壊スピードだ。
瓦礫群が市民に降り注ぐ前に、空中ですべて壊してしまう。
怪我をした人たちは、アンが広範囲治癒魔法で片っ端から治療していた。
そしてクルーガーは、
「うなれ、竜巻──『トルネードブレイカー』!」
巨大な竜巻をいくつも作り出し、瓦礫群をまとめて吹き飛ばしていく。
よし、俺は彼らの救助が及ばない範囲に走って、残りの瓦礫群を吸いこんでいこう。
しゅおんっ、しゅおんっ、またまた、しゅおんっ……!
走り回りながら、範囲内の瓦礫を残さず吸い取っていく俺。
さながら俺自身が掃除道具であるかのように。
と──、
「ま、まずい、倒れるぞ!」
誰かが叫んだ。
「えっ……!」
振り返ると、全高100メートル以上はあろうかという巨大な尖塔が揺れていた。
王都の象徴ともいえる、『飛竜の塔』だ。
あんなのが倒れたら、どれほどの死傷者が出るか──。
「ちいっ! 『トルネードブレイカー』!」
クルーガーが風魔法でそれを破壊しようとする。
が、対象が大きすぎて、すぐには完全破壊できない。
さらに二発、三発と風魔法を連打するが、せいぜいが半壊程度。
塔は大きく揺れ、やがて市民が密集している場所に向かって、崩れながら倒れる──。
「【ブラックホール】!」
俺は叫んだ。
叫びながら、走った。
間に合え──。
だけど、塔までの距離が遠い。
このままじゃ、届かない──。
「『スピードギア』!」
後方から呪文が聞こえた。
同時に、両足にすさまじい力がみなぎる。
「走ってください、マグナさん~!」
これは──僧侶アンの強化呪文か!
「ありがたい──」
俺は数倍にアップした脚力で駆け抜けた。
「瓦礫だけじゃなく、あの塔全体を吸いこめ。いいな?」
走りながら【ブラックホール】の設定を微調整。
崩れゆく塔を射程圏に捉えた瞬間、
しゅおんっ……!
尖塔全体を瓦礫もろとも吸いこんだのだった。
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