6 SSSランク冒険者、集結
ヴルムさんと合流した俺たちは、支部の最上階へと上がった。
そこの大会議室で、今回のクエストの説明があるそうだ。
と、
「お、来たな。ヴルムさん、ブリジットの小娘」
部屋の扉の前に、筋骨隆々とした大男が立っていた。
年齢は俺と同じくらいだろうか、精悍な顔立ちだ。
二メートル近い体躯に革鎧姿。
右手に持っているのは魔法使いの杖。
戦士とも魔法使いともつかない装備だった。
「久しいの、クルーガー」
「小娘は余計だ」
挨拶を返すヴルムさんとブリジット。
「それともう一人は──」
クルーガーが俺を見た。
「誰だ、あんたは? ここにはSSSランクしか呼ばれてないはずだが」
太い眉を寄せる。
不審に思われているようだ。
「彼はマグナ・クラウド。ランクはSになったばかりだけど、戦力的にはSSSに匹敵すると私もヴルム師も判断している」
「ふむ。彼は強いぞ」
ブリジットとヴルムさんがフォローしてくれた。
二人とも優しい。
「……ほう」
クルーガーが俺をにらんだ。
こっちは、あいかわらず怖い顔だ。
──といっても、これが地顔っぽい気もするが。
「ま、実戦になってからだな。俺は一緒に戦った人間しか信じねぇ。たとえブリジットやヴルムさんが言うことでも、な」
クルーガーが背を向けた。
「実戦で力を見せてみろ、Sランク。あんたの評価はそれからだ」
言い捨て、室内に入っていくクルーガー。
「あの人は?」
その背を見ながら、俺は二人にたずねた。
「SSSランク冒険者『烈風帝』クルーガー。風属性魔法を極めた最強レベルの魔法使いさ」
ブリジットが説明してくれた。
「SSSランクであることに強いこだわりを持っていてね。下のランクの冒険者にはああいう態度を取ることがある」
「根はいい奴じゃよ。面倒見がよく、他の冒険者たちにも慕われておる。兄貴分タイプという奴かの」
と、ヴルムさん。
「プライドが高くて、とっつきにくく感じるかもしれんが」
……うん、確かにとっつきにくい。
「では、ワシらも行くとしようか」
ヴルムさんが促した。
「あの、俺は?」
「私から許可は取っている。あなたも会議に加わってほしい。それからシャーリーもだ」
ブリジットが答える。
そして、俺たちは会議室に足を踏み入れた。
SSSランク冒険者らしき人は、さっきのクルーガー以外に二人いた。
一人は、東部大陸風の赤いドレスを着た少女。
中性的で整った顔立ちが凛々しい。
体のラインがぴっちりと出るデザインで、太ももの付け根近くまで入っているスリットが艶めかしい。
もう一人は青い僧衣を着た、小柄な少女──たぶんブリジットよりさらに年下だろう。
十代前半くらいに見える。
「左は『闘鬼拳』レイア。徒手空拳なら大陸最強と呼ばれている。右は『蒼の聖女』アン。まだ十一歳だが、強化や弱体化の僧侶魔法を極めている。当然、二人ともSSSランク冒険者だ」
ブリジットが説明してくれた。
この子、俺が疑問に思ったことは毎回説明してくれるから、本当にありがたい。
「それにクルーガーとワシ、ブリジット嬢を加えた五人がとりあえずの招集メンバーのようじゃの」
「近場で集まれるのは、ボクたちだけだったみたいだね。中には面倒がって来なかった人もいるかも」
武闘家娘のレイアが苦笑交じりに言った。
「SSSランクのみなさんは、それぞれお忙しいですから~」
僧侶少女アンがそれをとりなすように柔和な笑みを浮かべる。
「そろったようだな」
初老の男が部屋に入ってきた。
「私はここの支部長バーンズという。これからクエストの概要を説明させてもらう。全員、席についてほしい」
と、バーンズさん。
その説明によると──。
謎の空間震動現象はちょうど五日前に初めて感知されたそうだ。
その後も震動は断続的に続き、徐々に揺れが大きくなっている。
中心震動地はレムフィール王都の上空。
おそらく、ここ二、三日の間に、王都を中心にして大規模な震動が起きるだろう、と冒険者ギルドでは予測している。
巨大な震動によって何が起きるのかは、未知数だ。
過去にもこういった事例はないらしい。
震動の結果、空間が裂け、そこから魔界や他の世界からの魔物が出てくる可能性もある。
あるいは震動そのものが地震のように多くの建物を倒壊させるかもしれない。
モンスターによる魔獣災害か、天変地異を伴う魔導災害か、あるいはその両方か──。
現時点ではすべての事態に備える必要があり、戦闘力が高いSSSランク冒険者をレムフィール王都に招集した、という経緯だった。
「事の詳細は極秘にしている。建物の大規模倒壊のような事態には、天馬騎士団で避難誘導にあたってもらうため、シャーリー騎士団長には会議に参加してもらっているが」
バーンズさんが言った。
「SSSランクの諸君は、強力な魔物などが出現した場合に備えてほしい。ギルドの魔術師チームによると、かなり巨大な魔導エネルギーを複数感知しているそうだ。それが魔導災害現象の前兆なのか、魔獣の類が発しているものかは不明だが……後者だった場合は、諸君の戦闘能力が必要となる」
「うむ」
「了解した」
「どんな敵が相手だろうと、俺が薙ぎ払うから心配すんな」
「同じく、だね。ボクの拳で粉砕するよ」
「わたしは全力でみなさんをサポートします~」
五人のSSSランク冒険者がうなずく。
さすがに全員オーラがあって、すごく頼もしい雰囲気だ。
もちろん、俺も──。
何かあったときには、全力を尽くすつもりだ。
【ブラックホール】の力で。





