3 ひとときの平穏
「ところで、なんで二人はアルトタウンまで来てくれたんだ?」
「えっ、そ、それは……」
俺の問いにシャーリーがギクッとしたような顔になった。
なぜか両手の指を合わせ、モジモジし始める。
ん?
いかにも凛々しい女騎士、って感じのシャーリーにしては珍しいリアクションだ。
「マグナと一緒にいる機会を確保したかったんだろう」
横から言ったのは、ブリジットだった。
「ち、違うったら! 違うんだからぁ……」
たちまち顔を赤くするシャーリー。
「えっと、これは、その……そう、クエスト前に互いの親睦を深めるというか、実戦での連携を磨くための一環というか……」
しどろもどろだ。
「ふふ、でもみんなで一緒にいられて楽しいのです」
「そうね」
微笑むキャロルとエルザ。
「私もクエスト前に一息入れるのは、士気の高揚のためにも有用だと思う」
ブリジットが言った。
「そ、そう、それ! あたしはまさにそれを言いたかったわけよ!」
シャーリーは我が意を得たりとばかりに胸を張った。
「連携ってことは、もしかしてシャーリーもクエストに加わるのか?」
「ええ、天馬騎士団の精鋭も何名か、今回のクエストに帯同するわ。王命で、ね」
と、シャーリー。
「なんといっても、『あれ』が落ちてきたら、一番被害を受けるのは我がレムフィール王国だもの」
『あれ』が落ちてくる──どういう意味だろう?
それが今回のクエストと関係しているんだろうか。
天変地異とか言っていたけど……。
「詳しくは、向こうで話すわ」
シャーリーが声を潜めた。
なるほど、人が多いところで軽々しく話せることでもないよな。
「とにかく、ひさびさに騎士団から離れて羽を伸ばせ……じゃなかった、ちょっとした旅行気分……でもなかった、あたしたちはクエストに備えて、ここにいるわけ。分かった?」
「本音がダダ漏れのような……」
「もうっ。そこは聞かなかったことにしてよ」
ぷうっと子どもっぽく頬を膨らませたシャーリーは、まるで年下の少女のように可愛らしかった。
二人は、俺たちの定宿に泊まることなった。
キャロルたちの隣の部屋である。
「わーい、みんなでパジャマパーティなのです」
キャロルがはしゃいだ。
狐耳と尻尾が嬉しそうに、ぴょこぴょこ、と跳ねている。
「ふふ、いいわね。勇者の養成機関にいたころをお思い出すわ」
「あたしも騎士学校に通ってたときに、そういうのをしたわね」
顔を見合わせ、微笑むエルザとシャーリー。
「ふむ、楽しそうじゃないか」
ブリジットも口元をほころばせていた。
女性陣は盛り上がっているようだ。
楽しそうで何よりである。
で、俺は当然のごとく、一人部屋だ
べ、別に拗ねてなんていないんだからねっ。
……まあ、ちょっぴり寂しいというのが本音ではあるが。
「【ブラックホール】展開」
部屋の中で、俺はスキルを発動した。
もちろん敵を吸いこむためじゃない。
ちょっと見ておきたいことがあったのだ。
俺の前方に黒い魔法陣が出現する。
黒い円形で、内部には金色の紋様が浮かんでいた。
ちなみに表も裏も同じ模様である。
魔法陣の縁からは、バチッ、バチィッ、と金色のスパークが散っていた。
「やっぱり、紋様が増えてるな……」
俺はあらためて確認する。
金色の紋様が単なるデザインなのか、それともなんらかの文字なのか──そのあたりは不明である。
魔法に詳しい人なら分かるんだろうか……?
「あ、今度SSSランクの冒険者たちに会ったら、聞いてみてもいいな」
たぶん、その中には高レベルの魔法使いもいるだろう。
今いるメンバーで魔法に詳しそうな人はいないから、向こうに着いてからの話だな。
とりあえず、現時点で俺がこのスキルについて解明できることはなさそうだ。
「……ん?」
と思ったら、魔法陣の奥に何かが見えた。
扉だ。
わずかに開きかけているそれの向こうに──。
揺らめく黒い炎のような人影が見えた。
以前に見たときよりも、はっきりと。
「……誰だ、お前は」
問いかけてみる。
答えは、なかった。





