1 帰還と出立
「最高難度クエスト……か」
それもSSSランク冒険者が集まるほどの。
「知らなかったの? ここ数日の天変地異もあって、かなり話題になっているはずだけど──」
と、シャーリー。
「天変地異?」
「初めて聞いたのです」
「私も」
俺たちは首をかしげた。
「……ちょうど四日ほど前から、断続的な地震や豪雨などに加えて、各地で空間震動が起きているわ」
「何かとてつもない力を持った存在が、この世界に現れようとしているそうだ」
シャーリーの説明を引き継ぐブリジット。
「空間震動はその予兆さ」
「とてつもない力を持った存在、ってなんだ? 敵なのか」
「分からない。人類に益をもたらすのか、害をもたらすのか──それさえも。だが、後者だった場合は生半可な戦力では立ち向かえない」
ブリジットはツインテールの先端を指でぴんと弾き、言った。
「だから私たちSSSランク冒険者を招集し、対策会議を開くそうだ」
そんな大変なことになっているのか。
それにしても天変地異って──。
セイロードで戦っていたときは、そんな天候じゃなかったんだけど。
もしかして、と思い当たる。
【虚空の領域】にいる間に、何日か時間が過ぎてしまっている……?
「あなたも一緒に来たらどうだ、マグナ・クラウド?」
ブリジットが俺を見つめた。
「え、俺?」
「先の帝国との戦いでは、私とヴルム師の二人がかりでも劣勢だった超魔獣兵を、あなたは一瞬で倒してみせた」
と、ブリジット。
「その戦闘能力は貴重だ」
「そうね。あたしからもお願いするわ」
シャーリーが言った。
「SSSランク冒険者が集まるのは、我がレムフィール王国なの。空間震動の中心震動地がそこだから」
「レムフィールが……?」
「君の力をまた貸してくれないかしら。レムフィールの、そして世界のために」
身を乗り出すシャーリー。
世界のために、か。
随分とスケールの大きな話だ──。
「行くか。俺の力が役立つなら」
そう決めた。
「キャロルたちはアルトタウンで待機してくれ」
「何を言っているのですか。あたしも行くのです」
「そうよ、仲間じゃない」
俺の言葉に、キャロルもエルザも首を振った。
「危険かもしれないし……」
「また変な世界にマグナさんが飲みこまれたら、離れ離れになるのです。そちらの方が心配です」
「そうよそうよ」
いや、あの世界に危険はなさそうだぞ?
「とにかく、ついていくのですっ」
「私も」
キャロルもエルザも退きそうになかった。
──しょうがない、三人で行くか。
仲間、だしな。
それに俺の【ブラックホール】で全員守れば済むことだ。
SSSランク冒険者が集まるのは、今から四日後。
俺たちはいったんアルトタウンに戻ることにした。
ちなみに、現在地はレムフィール王国の国境付近の森らしい。
シャーリーはちょうど別件でブリジットと落ち合い、その帰路で俺たちを見つけたということだった。
で、そのシャーリーとブリジットも同行するということだ。
二人は天馬で、俺たちは馬車でそれぞれ移動し、町で落ち合うことになった。
その途中、
「通れない?」
街道が封鎖されていた。
「何日か前から、向こうの山間に竜の巣ができたんですよ」
通りがかった商人が教えてくれた。
「危険なので、周囲の街道を封鎖するそうです。私は商売を切り上げて、これから戻るところです」
「竜ですか……」
「あなたたちも迂回したほうがいいですよ」
うーん、別に大丈夫じゃないかな。
と、そのときだった。
GYAOOOOOOOOOOOOOO!
空から咆哮が響く。
見上げると、そこには巨大なモンスターの姿があった。
暗褐色の、巨大な竜である。
「ひ、ひいっ、来たぁ!」
商人が腰を抜かした。
なかなか強そうな竜だ。
クエストでいうなら、おそらくS以上──たぶんSSくらいのランクだろう。
「大丈夫ですよ。今片付けます」
俺は商人に微笑みかけた。
【ブラックホール】を展開する。
前方に金の紋様に彩られた黒い魔法陣が出現した。
「あれ? 前と少しデザインが違うような……?」
紋様の数が、明らかに増えていた。
デザインも複雑化している。
さらに、バチッ、バチッ、と魔法陣全体から金のスパークが飛び散っている。
「前よりかっこよくなっているのです」
「豪華な感じもするわね」
と、キャロルとエルザ。
もしかしたら【虚空の領域】であの腕を取りこんだ影響だろうか。
見た感じ、500メートル以上も上空の竜を吸いこめないところから、射程距離は変わってないようだけど。
と、その竜が俺たちを見て降下してきた。
「いいぞ、近づいて来い」
俺が告げた、次の瞬間、
しゅおんっ……!
射程内に入った竜は、黒い魔法陣に吸いこまれて消えた。
いつも通りに討伐完了だ。
「竜はいなくなったし、予定通りの道を進みましょう」
俺は御者に言った。
「り、竜をあっさり倒しちまった……? あ、あんたたち、何者……!?」
「? 別に竜くらいなら。もっとすごい敵も飲みこんできましたし」
「マグナなら普通じゃない?」
キャロルとエルザはキョトンとしている。
うん、俺もすっかり慣れてしまった。
けど、竜を瞬殺って本来はとんでもない行為なんだよな。
【ブラックホール】を使っていると、その辺の感覚が麻痺してくる……。
掲載開始から一カ月ほどで100万PVを超えていました。読んでくださった方、本当にありがとうございます。引き続きがんばります。





