11 王の証
少し短いですが5章ラストです。
ぎぎぃ……。
きしんだ音を立て、広間の奥の壁が左右にスライドした。
その向こう側から光が差しこむ。
「隠し通路……?」
これが元の世界に通じる道なんだろうか。
「……ん。地上の匂いがちょっとだけするのです」
くん、くん、と鼻をひくつかせるキャロル。
さすが獣人だけあって嗅覚抜群だ。
「じゃあ、この道を進めば元の場所に戻れるんじゃない?」
「だな」
行くか。
俺は手元の『腕』を見下ろした。
これはどうすればいいんだろう。
──と思ったら、
「う、うわっ!?」
腕は光を発して俺の中に吸いこまれてしまった。
「マグナさん、大丈夫なのです?」
「腕が体の中に……?」
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【王の証(右腕部)】を獲得しました。
【虚空の領域】の支配権が20%に達しました。
因果律超越率が10%アップしました。
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例によってメッセージが表示されたけど、意味は分からない。
「ん……平気みたいだ」
むしろ力がみなぎってくる感じさえ、ある。
ちょっと不気味だけど──とりあえず、今は目の前の道を進もう。
「戻るぞ、元の場所に」
クリーム色の淡い光に包まれた通路を、俺たちは進んでいた。
ところどころに分かれ道があり、『←地上』『↑第二層よいとこ一度はおいで!』『↓第一層名物! ブラックホール温泉!』などといった案内標識があった。
……なんだよ、ブラックホール温泉って。
ちなみに第二層に続く道は扉で閉ざされていた。
まあ、今はそこに行くつもりはないけど。
そうやって通路を進み、一時間ほど。
俺たちの前にまぶしい光が広がった。
「う……」
だんだんと光が和らぐ。
そこは、広大な森の中だった。
ライゼルたちと戦った場所とは違うらしい。
「戻ってきた……のか?」
つぶやく俺。
灰色一色の世界ではなく、緑に色づいた木々や茶色い土、青い空が広がっているし、少なくとも【虚空の領域】内ではないはずだ。
「もしかして……マグナくん?」
頭上から声がした。
「えっ」
振り仰ぐと、そこには天馬に乗った女騎士の姿があった。
美しい緑色の髪を長く伸ばした、理知的な印象の美人。
身に着けているのは銀の甲冑と緑の外套だった。
「シャーリー?」
レムフィール王国の天馬騎士、シャーリーである。
「あ、お久しぶりなのです」
「どうして、あなたがここに?」
俺とキャロル、エルザの声が重なる。
「キャロルさんもエルザさんもお久しぶりね」
馬上から微笑むシャーリー。
「どうしてって言われても、ここはレムフィール王国だし」
ん?
なぜか元の場所じゃなく、レムフィール王国に出てしまったのか。
「久しぶり」
と、さらに声をかけてきた人物がいた。
十代半ばくらいのクールな美貌の少女だ。
ツインテールにした紫色の髪に白いワンピースのような衣装。
以前にレムフィール王国で共闘したSSSランク冒険者、『魔弾の射手』ブリジットである。
「あんたまでどうして……?」
「SSSランクに招集命令があったんだ。冒険者ギルド本部から直々に、ね」
淡々とした口調で告げるブリジット。
「えっ」
「最高難度のクエストが行われるそうだ。そのためにSSSランク冒険者たちが集まる──このレムフィール王国に」
次回から「第6章 SSSランク冒険者編」になります。明日更新予定です。
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