10 決着と邂逅
前半はルネ視点、後半はマグナ視点です。
ルネは地を蹴り、まっすぐに突進した。
「自分から仕掛けるだと!?」
驚きの声を上げる勇者たち。
「なら、ハチの巣にしてやる!」
光弾が、矢が、次々に飛んできた。
避けるスペースが、ない。
(いや、避ける必要なんてない!)
ルネは下肢にすべての力を込めた。
キーラの豪快な動きをイメージし、爆発的に加速する。
多少の手傷を負うことは承知で、光弾と矢群を突っ切る。
同時にアイラの優雅な動きをイメージし、最小限の回避行動を行う。
全身のいたるところを傷つけられつつ、致命ダメージだけは避けられるように。
血しぶきを飛ばしながら、さらに速く。
踏みこむ。
もっと速く。
(もっと……強く!)
イメージする。
力だ。
暴力的なまでの、力。
圧倒的なまでの、力。
すべてを薙ぎ払う、最強の力──。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
ルネはさらに踏みこんだ。
己の限界を超えるべく、より力強い一歩を。
最強へと続く、一歩を。
光弾と矢群の弾幕を抜け、ついに前衛の二人へと肉薄する。
「こ、こいつ──」
焦ったような戦士型勇者二人が、剣を繰り出してくる。
大剣を旋回させて受け止めるルネ。
先ほどよりも、斬撃が軽い。
『心の力』を動力源とする勇者の武具──奇蹟兵装は、彼らの動揺を映し出したかのように威力を弱めていた。
「今度は俺が押し切る──」
体を限界までしならせ、その勢いで思いっきり大剣を叩きつける。
封神斬術、雷牙刃。
「な、なんてパワーだ……っ」
ルネの斬撃の勢いに押され、よろめく戦士型勇者たち。
体勢が崩れた彼らを、ルネはなんなく斬り伏せた。
「まず二人! 次──」
間髪入れずに、投げナイフを放った。
「無駄だ!」
その攻撃を読んでいたのか、弓兵型勇者は無数の矢を放って迎撃する。
ルネのナイフは矢群によって打ち砕かれ、
「っ……!?」
そのすぐ後に投げつけた大剣が──ナイフによって、その軌道を隠されていた本命の一撃が、彼を貫いた。
「が……はっ……!」
絶命した勇者の元に駆け寄り、素早く剣を引き抜き、さらにもう一人も斬る。
「四人!」
返り血を全身に浴びながら、吠えるルネ。
「お、お前は、一体……?」
「ただの下級魔族じゃないのか……?」
残る二人の『砲戦型』勇者たちがおびえた顔で後ずさった。
「俺はダークブレイダーのルネ」
血まみれの大剣を手に、ルネはにいっと笑う。
「いずれ最強の魔族になる男だ、あの世に行っても覚えておけ!」
そして──残り二人の勇者も血しぶきをあげ、倒れた。
……ぞくり。
ふいに、全身に悪寒が走った。
「っ……!?」
当面の敵を撃破した安堵に浸る間もなく、ルネは顔をこわばらせた。
慌てて周囲を見回す。
まだ、誰かがいる。
勇者たちとは比べ物にならない、すさまじいプレッシャー。
上位魔族すら圧倒するほどの、強烈な圧力。
「誰……だ……?」
ルネはかすれた声でうめいた。
「ふむ、下級魔族と聞いておったが、それにしては強すぎるのう」
威圧感とは裏腹の、飄々とした態度で現れたのは──小柄な老人だった。
腰のあたりまで伸びた白髪に、白いヒゲ。
軽装鎧姿で、腰に二本の剣を差している。
「ヴルムというしがないジジイじゃよ。ひさびさに里帰りしたら、こんなことになっておるとは、の」
「おじいちゃん……!?」
と、ラスが戻ってきた。
彼の祖父──。
その言葉に、ルネはハッとなった。
『おじいちゃんは、えすえすえすらんくのぼうけんしゃなの。あちこちをたびしていて、めったにかえってこないんだ。すごくつよいんだよ』
ラスの話を思い出す。
「SSSランク冒険者──」
「ほう、知っておったのか。まあ『炎竜殺し』などという仰々しい二つ名で呼ばれることもあるが、の」
ヴルムがニヤリと笑う。
好々爺然とした顔に、どう猛な気配が色濃く漂い出す。
「ここはワシの故郷でな。魔族が襲ってきたのであれば──」
ヴルムは二本の剣を抜く。
「村人を守らねばなるまい」
惚れ惚れするほど隙のない構えだ。
(こいつ──強いぞ! 半端じゃなく……!)
おそらくは、あのアイラやキーラをも上回るほどに。
まさしく強大な竜と相対するような強烈な畏怖を、ルネは感じていた。
※
俺たちは【虚空城】の最上階までたどり着いた。
広間の中央に、玉座のような椅子がある。
そこに漆黒の輝きを宿す、腕のオブジェが安置されていた。
「なんだ、これは──」
俺は訝しみつつ、近づく。
「彫刻……でしょうか?」
「邪悪な気配は感じないわね」
俺と一緒に歩きながら、キャロルとエルザがつぶやく。
外見は怪しい感じだが、それが敵でもなければ、罠でもないことを──。
俺は本能的に確信していた。
玉座まで歩み寄り、腕を手に取る。
金属のように硬質だけど、ひと肌みたいな温かみがあった。
どくん、どくん、とかすかに脈動しているようだ。
ぱんぱかぱーん!
突然、どこかからファンファーレが鳴った。
────────────────────
【虚空の領域・第一層】を制覇しました。
規定レベルに到達次第、第二層の扉を開きます。
引き続き全六層クリアまでがんばってください。
見事クリアした暁には……?
その先は君自身の目で確かめよう!
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「えっと……どういう意味だ?」
いちおう質問したものの、当然のように返答はなし。
……あいかわらず、説明不足なメッセージだ。
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