6 虚空城への旅路3
「俺は自分のスキルについて、知らないことが多い」
俺は赤い人形たち──【転送チーム】の面々を見渡した。
「いくつか教えてもらってもいいか?」
「王様のご命令なら、なんなりと~!」
「なんでも聞いてくださーい!」
赤い人形たちが元気よく答える。
「じゃあ、一つ目。【ブラックホール】には吸いこめる容量に限界があるのか?」
「ないでーす!」
即答だった。
「外界で吸いこんだものは、第一層から順番に最終の第六層まで行きまーす!」
「その最終層は無限に広がってるので、吸収可能容量も無限大でーす!」
「ただ第一層から第五層まではそれぞれ広さが決まってるのと、あたしたちの人員にも限りがあるので、吸いこむスピードには限界がありまーす!」
つまり、
・容量に限界はなくて、いくらでも吸いこめる。
・吸引スピードには一定の限界がある。
というわけか。
「なるほど、だからライゼルの死霊を大量に吸いこんだときに、一気に全部吸引できなかったんだな」
たぶん、彼女(?)たちが順番に『転送処理』とやらをしていて、そのスピードに処理限界があるから──全部吸いこむのに多少の時間がかかる、ってことだろう。
「じゃあ、次だ。【ブラックホール】はレベルが上がると、スキル効果が増えたり、射程が伸びたりするけど、他にどんな効果があるんだ?」
と、二つ目の質問に移る。
「あ、C‐34エリアから応援要請でーす!」
「他の【転送チーム】が残業続きでしんどいって言ってまーす!」
「あたしたち、応援にいってきまーす!」
赤い人形たちはいきなり背を向けた。
「え、あの……?」
引き止める間もなく、走り去った。
うーん、またも質問の途中で強制終了パターンか。
まあ、吸いこめる容量に限界がないってわかっただけでもよしとしよう。
一つ一つ、スキルについて解き明かしていかないとな。
……今後のためにも。
俺たちはふたたび街道を進んだ。
「マグナさん、エルザさん、見てくださいなのです。もしかして、あれかも──なのです!」
ふいにキャロルが右前方を指さす。
「ん?」
よく見ると、そこだけが蜃気楼のように揺らめいていた。
「何か見えるわね」
と、エルザ。
目をこらすと、巨大な城のような形をしているのが分かった。
透明な城だ。
「着いたんだ……」
俺は安どの息を漏らす。
目的地である【虚空城】へ。
城内に入ると、十数体の銀色の人形が廊下を行き来していた。
「お前たちは?」
「【警備チーム】であります、王様」
「この第一層の要である【虚空城】を守っているのであります」
直立不動で答える銀の人形たち。
基本的な姿は【回収チーム】や【転送チーム】と同じ。
ただ、こちらは全身鎧を着た騎士のようなシルエットだ。
「守る……? ってことは、ここに敵が攻めてくるようなこともあるのか?」
「ないのであります」
「ここに吸いこまれた者は無力になりますので」
「あくまでも万が一の備えであります」
「あと、なんとなく兵がいたほうが城としてのカッコがつくからであります」
……そ、そうなんだ。
「最上階で王様を待っている者がいるのであります」
「えっ」
銀の人形の言葉に驚く俺。
「待っている……?」
「そこから最上階まで行けるのであります」
銀の人形が廊下の突き当たりを指し示した。
そこには階段がある。
「行ってみるか──」
俺はキャロル、エルザとともに階段を上がった。
全部で六階。
最上階にたどり着くと、廊下が伸びていて、その奥に広間があった。
「あれは──」
広間の中央に据えられた、玉座のような椅子。
そこに、人の腕のようなものが置かれていた。
漆黒に輝く、腕の形をしたオブジェだ──。
※
勇者ギルドの本拠地──神聖王国セイロード王都への侵攻作戦は、魔族側の惨敗に終わった。
魔軍長ライゼルや側近である霊魔衆、他にも上級魔族や兵に至るまで、その大半が消滅してしまった。
戦場の混乱もあり、何が起きたかは詳細不明だ。
ただ──どうやら、とある冒険者がそれを為したらしい。
(奴だ)
ルネは確信していた。
以前に、九尾の里で目にした、絶対的な力。
どれほど強大な敵であろうと、あるいは魔法などの攻撃であろうと、すべてを飲みこみ、瞬殺する──。
その力が魔族軍を退けたのだ。
ルネにとって憧憬を呼び覚ます、絶対的な力。
同時に、いずれ自分もその領域にたどり着いてやるという目標でもある。
だが、その冒険者は戦闘の最中、突然姿を消したのだという。
とはいえ、そのときにはすでに戦況はほぼ決していた。
残る魔族も勇者たちによって掃討され、生き残ったわずかな者だけが散り散りに逃げた。
ルネも、その一人だ。
魔界へ戻る通路も、それを開く術士が討たれてしまい、すでに閉じた後だ。
ルネは帰るすべを失い、今はセイロード王国内をさ迷っている状況である。
そして戦いの翌日、王都からほど近い村に流れ着いた──。





