4 虚空城への旅路1
究極スキル【ブラックホール】の内部──【虚空の領域】。
図らずもそこに入ってしまった俺とキャロル、エルザの三人は、灰色の森の中を進んでいた。
目的地は【虚空城】。
その最上階にあるという、元の世界とつながっている通路だ。
だけど、まず【虚空城】の場所が分からない。
「どうだ、キャロルー。何か見えるかー?」
「んーと……あ、もしかしてあれかも、なのです~!」
手近な森に入り、キャロルに高い木の上まで登ってもらった。
こういうときは獣人である彼女が頼りになる。
「何か見つけたのか?」
「お城があったのです」
降りてきたキャロルにたずねると、彼女がにっこりと答えた。
この森の向こうに小高い丘があり、その頂上付近に城があるということだ。
目指す【虚空城】なのか、それとも別の城なのか。
何しろノーヒントなので、判断ができない。
とりあえず行ってみよう、ということになった。
そうして森の中を進むこと、三時間──。
「そろそろ休憩するか」
俺はいちおう冒険者だし、キャロルは獣人で一般的な人間よりも体力がある。
エルザも勇者の修業をしていたし、冒険者としても仕事をしているから、こちらも体力面は問題なし。
だから余力は十分なんだけど、得体の知れない世界だし、疲労を溜めないようにしようという方針だった。
「そういえば、この中だと【ブラックホール】って使えるのかな」
ふと疑問に思い、試しに念じてみた。
黒い魔法陣は──出ない。
どうやら【ブラックホール】の中で【ブラックホール】を使うことはできないらしい。
まあ、そりゃそうか。
「マグナさん、あれ……」
キャロルが前方を指さした。
どどどどどどっ!
盛大な土煙と足音を立てながら、何かがこっちに向かってくる。
すさまじいスピードだ。
「まさか、敵──」
今はスキルが使えない。
もしも強力なモンスターにでも襲われたら、ひとたまりもない。
俺は緊張しながら身構える。
次の瞬間──。
現れたのは、十数体の黒い人形だった。
身長は一メートルくらい。
生物と機械の中間のような印象を受ける。
そいつらが俺の前で止まる。
「あなたは──王様!」
「王よ、よくぞいらっしゃいました!」
えっ、王様?
「俺のことか」
「もちろんです。この虚空の領域の王」
「私たちは素材回収係です」
「素材回収係……?」
首をかしげた俺は、ハッと気づく。
「もしかして【ブラックホール】の【素材回収モード】と何か関係があるのか?」
「はい、あれは私たち【回収チーム】の仕事です」
「そっか、いつもありがとうな」
こいつらのおかげで、冒険者のクエストをこなせているんだ。
「王様が我らに直接礼を言われたぞ!」
「もったいないお言葉です、王様!」
「ありがとうございます、王様!」
人形たちはえらく感激しているようだ。
「そうだ、他にも教えてもらっていいか? 実はこの世界に来たのは初めてで……」
「我らに答えられることでしたら、なんなりと」
おお、スキルに関して初めてまともに質問できるぞ。
「俺たちは【虚空城】ってところを探してるんだが、場所は分かるか?」
「【虚空城】なら、あそこの──」
と、丘の上の城を指さす人形たち。
やっぱり、あれが【虚空城】か。
「城が【虚空城】と見せかけて、実はハズレです」
──って、違うのかよ!?
「正解は逆方向にある大きな街道沿いに進むと、透明な城があります。遠くからでは見えませんが、近づくとぼんやりと見えるので」
「……ハズレってなんだよ。嫌がらせか」
ともあれ、【虚空城】の場所は分かった。
「ありがとう。すごく助かる」
「王様が我らに直接礼を言われたぞ!」
また感激されてしまった。
「えっと、他にも聞いていいか? 俺は自分のスキルについて、よく知らない部分がたくさんある。それを──」
「すみません、【転送チーム】から呼び出しがかかりました。人手が足りないので応援に来てほしいそうです」
「えっ?」
「なんでも、二億を超える死霊を吸引して、それを最終層まで送っている最中のようで。かなり修羅場らしいので行ってきます」
言うなり、人形たちは背を向けた。
「お、おい……」
そのまますごいスピードで走り去っていく。
「うーん……結局、【虚空城】の場所しか聞けなかった」
ぽりぽりと頭をかく俺。
【転送チーム】とか言ってたし、あいつらの他にも似たような集団がいるんだろうか。
……っていうか、二億を超える死霊ってライゼルの呪文で出てきた奴らだよな。
「でも、とりあえず道が分かったよかったのです」
「そうね。危うく無駄足を踏むところだったんだし」
にっこりと告げるキャロルとエルザ。
確かに、一歩前進だ。
「じゃあ、行くか。【虚空城】へ」
俺たちの、領域内の旅は続く──。





