3 探索任務
双子勇者のアイラ視点のお話です。
次回はマグナ視点に戻ります。
「まず、お前たちの報告を聞きたい」
「マグナ・クラウド──かの者の力は、お前たちからどう見えた?」
モノリス群が明滅し、上層部が問いかけた。
「上位魔族や億単位の死霊をすべて飲みこみ、魔軍長までも吸いこんで倒してしまいました」
「あれなら、あるいは魔王すら倒してしまうかも……と感じます」
アイラとキーラが説明する。
「それと、一つ気になることを耳にしました」
と、付け加えるアイラ。
「マグナ・クラウドと魔軍長ライゼルの会話です。ライゼルはマグナに『自身のスキルについて話せ』と。そして彼は自身のスキルの由来について明かしました」
言って、アイラは小さく首を振った。
「──といっても、彼も敵に簡単に手の内をさらすようなことはしないでしょう。あくまでも、その場しのぎの嘘である可能性は高いと思います」
「構わん。どんな情報も貴重だ」
「ありのままを話せ」
「はい。マグナ・クラウドは、自身のスキルのことをこう語っていました。もともと自分が持っていた外れスキル【落とし穴】が進化したものだ、と──」
アイラは、マグナとライゼルの会話のすべてを上層部に伝えた。
「【落とし穴】……?」
「聞いたこともないスキルだ。おおかた、低レベルの異能系だろう」
「だが、それが【虚空の封環】とやらに化けたわけか」
「真実だとすれば、な」
「仮に真実だとして、スキルの進化……『熟練度上昇』ではなく『等級上昇進化』という現象自体は、まれではあるが存在する。だが【落とし穴】と【ブラックホール】では効果が違いすぎる」
「因果から外れたゆえの、超進化……考えられなくはない」
上層部はアイラやキーラそっちのけで議論を始める。
「まあ、よい。貴重な情報だ。よくやったぞ、アイラ、キーラ」
「はっ」
双子勇者は直立不動で答えた。
「では、先ほどの話に戻ろう」
「マグナ・クラウドの捜索についてだ」
「かの者の姿がこの世界から忽然と消えうせた」
「この世界に点在する異空間の類を一通り探ってみたが、どこにもいない」
「我らの探知にかからぬ……『神託』ですら、な」
「『神託』ですら──」
上層部の言葉に、アイラは驚きを隠せなかった。
全知全能たる神の意志、その一部を受信するのが『神託』という行為だ。
だが、その神にさえ分からないとは。
「では、一体どこへ……」
「それを探すため、お前たちには一人の勇者を訪ねてもらいたい」
告げたのはモノリス『01』だった。
「その者の名はベアトリーチェ・ディレイド」
「『空間操作』の奇蹟兵装を持つ、世界で唯一の勇者」
「だが、かなりの辺境に住んでいる上に、現在は危険な場所になっている」
「ただでさえ強力な魔獣が多数生息していることに加え、今はヴェルフ帝国の勢力圏内でもあるからな」
ヴェルフ帝国といえば、『始まりの魔王』を信奉する邪教の帝国だ。
世界征服の野望に取りつかれた悪の皇帝が、新型の魔獣兵器群を駆って、侵略戦争に乗り出しつつあるとか。
「かの者の居場所は、おそらくこの世界ではなく、別の世界であろう」
「探し出せる可能性があるとすれば、ベアトリーチェをおいて他にはない」
「お前たちは命を懸けてでも、彼女の元までたどり着くのだ」
「そして、マグナ・クラウドを探し、この世界へ生還させよ」
「かの者は世界にとって──来たるべき魔王との戦いにとっても、最重要の人材」
「お前たちの命とは比較にならぬほど重い。いかなる手段を用いてでも、かの者を見つけ出せ」
モノリス群から次々と声が響く。
冷たい声だった。
彼らにとって勇者とは、自分たちの考え通りに動く駒程度の感覚なのだろう。
だが、上層部とは神の意志──『神託』を受けることができる、唯一の集団。
いわば神の意志の地上代行者である。
彼らの駒になるのは、勇者として本望──。
アイラはそう考えていた。
「危険地帯ゆえに、お前たちといえども手に余る任務になるかもしれぬ」
「ゆえに万全を期して、もう一人──勇者を同行させる」
「ギルド最強の勇者を、な」
「えっ……!?」
驚いて、ハッと振り返る。
戸口に、新たな人物が立っていた。
ちょうど影になっていて、顔がよく見えない。
スラリと均整のとれた体つきに、東部大陸風の道着を身に着けているようだ。
「第一階位の勇者──『水』の四天聖剣、リオネス・メルティラートだ」
「っ……!」
上層部の言葉に、アイラは息を飲んだ。
四天聖剣。
それはあらゆる勇者の中で最高位に位置する、最強の四人だ。
『火』の奇蹟兵装『ミカエル』。
『風』の奇蹟兵装『ラファエル』。
『地』の奇蹟兵装『ウリエル』。
『水』の奇蹟兵装『ガブリエル』。
それらを操る四人は、SSSランク冒険者すら凌ぎ、魔王の側近である魔軍長さえ退ける強さを持つという。
まさに人類最強戦力の一人が、目の前に立っていた。
そして──アイラの新たな任務が始まった。
双子の弟キーラと、四天聖剣リオネスとともに。
行方不明となったマグナ・クラウドを探して──。





