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2 領域内部

 俺の眼前で黒い魔法陣が──【ブラックホール】が左右に開いていく。


 その向こう側に広がるのは、真っ暗な空間。


「う、うわっ……!?」


 しゅおんっ……!


 すさまじい力で体が引っ張られる。

 と思ったときには、俺は【ブラックホール】の内部へと吸いこまれていた。


「きゃあっ!?」

「なに、これぇっ!?」


 さらにキャロルとエルザも巻き添えを食うように、一緒に吸いこまれる。


 一瞬にして視界が暗転し、切り替わり──。




 気がつけば、一面が灰色の世界に立っていた。




「どこだ、ここは……?」


 俺は呆然と周囲を見回す。


 広がる大地も、その向こうにある森も、遠くに広がる山も。

 さらには空や太陽さえも。


 すべてが、灰色。


「もしかしてこれが──」

「変な場所に来てしまったのです」

「なんなのよ、これ」


 キャロルとエルザが俺の側でキョロキョロと辺りを見回していた。


「とりあえず出口を探さないとな」

「これってマグナさんの【ブラックホール】の中なのです?」

「たぶん……」


 扉を開く、とか書いてあったからな。


「説明のメッセージには【虚空の領域(ウォルドゥーム)】ってあったな」

「うーん……聞いたことのない名前なのです」

「私も」


 と、二人。


 もちろん、俺も初めて聞く単語である。


「っていうか、あなたのスキルなんだから、出口とかも自分の意志で出せるんじゃない?」

「あ、それもそうか」


 エルザの指摘にポンと手を打つ俺。


 突然の事態に驚いて、頭が回っていなかった。


「聞こえるか、【ブラックホール】。俺たち三人をここから出してくれ」


────────────────────

 術者の意志を確認しました。

────────────────────


 お、いいぞ。

 これで脱出できる──。


────────────────────

 実行不可。

虚空の領域(ウォルドゥーム)・第一層】から元の世界へ戻るには【虚空城(キャッスル)】の最上階にある通路を使ってください。

────────────────────


「なんだよ、【虚空城(キャッスル)】って……」


 もちろん、説明はなし。


 むむむ、とことん不親切なスキルだ。


「きゃっする?」


 きょとん、と首をかしげるキャロル。

 エルザも不思議そうな顔だ。


 あ、そうか。

 スキルの説明メッセージって俺にしか見えないんだっけ。


「元の世界に戻るには【虚空城】って場所に行って、そこの最上階にある道を通ればいいらしい」

「それってどこにあるの?」

「分からない。探すしかない……」


 エルザの問いに、俺はため息まじりに答えた。




 ──というわけで、俺たち三人は灰色の世界を歩き出した。


 虚空の領域。

 突然吸いこまれてしまった【ブラックホール】内部で、俺たちを待つのはなんなのか──。


 とりあえず、早く元の場所に戻りたいもんだ。


    ※


「第二階位勇者アイラ・ルセラおよびキーラ・ルセラ、参りました」


 アイラは緊張気味に部屋の中に入った。

 隣には弟のキーラが、同じく緊張の面持ちだ。


 ここは勇者ギルドの総本部ともいうべき『大聖堂(カテドラル)』。

 ギルドの上層部やごく一部の選ばれた勇者にしか入ることを許されない場所だ。


「お前たちに使命を与える」


 二人の前には十個の石板(モノリス)が浮かんでいた。


 上層部の意志を伝えるための魔導通信端末である。

 モノリスにはそれぞれ『01』から『10』までの番号が記されていた。


 使命、という言葉にアイラは反射的に体をこわばらせた。


 上層部が直接呼び出して授けられる使命。

 おそらくは最重要の機密事項だろう──。


「突然この世界から消えてしまったAランク冒険者──マグナ・クラウドの捜索だ」


『01』と記されたモノリスから厳かな声が響く。


「マグナさんの……?」

「かの者には我らから話があった。だが魔族の襲来があり、話は中途で終わってしまっている」

「かの者は重大な運命を背負う者。必ずや見つけ出せ」

「かの者のことを多少なりとも知り、相応の実力も持っているのはお前たちだ」

「ゆえに、この使命はお前たちに与える」


 重々しい声が、モノリス群から次々と響く。


「──謹んでお受けいたします」


 アイラとキーラは声をそろえ、深々と頭を下げた。


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