1 虚空の領域・第一の扉
「おお……お……ぉぉぉ……ぉ……」
無念の絶叫とともに──。
不死王ライゼルは【ブラックホール】の中に吸いこまれていった。
たとえ相手が魔王の腹心であろうと、まったく関係ない超絶のスキル効果。
いつも通りに。
あっけないほどに。
まさしく、一蹴だった。
爆風で打ち上げられた俺たちは、やがて自由落下に移り、ふたたび展開したエルザの『盾』で無事に着地できた。
「ありがとう、エルザ。おかげで奴を倒せたよ」
「私にできるのは、これくらいの援護だけよ」
微笑むエルザ。
まだ俺に抱きついたままなので、ちょっと照れくさい。
「あ……ご、ごめんなさい。私ったら、はしたない……」
エルザが顔を赤らめ、俺から体を離した。
「い、いや、えっと……」
そういう態度を取られると、俺もよけいに照れてしまう。
「その、エルザの奇蹟兵装が勝利の決め手になったんだ。誇っていいと思う」
照れ隠し代わりに、さっきの話に戻す。
「本当?」
彼女の顔が嬉しそうにほころんだ。
「本当にそうかしら?」
「ああ」
力強くうなずく俺。
「おーっほっほっほ! 魔軍長といえど、この勇者エルザ・クゥエルの敵ではなかったようね! この圧倒的な実力と美貌! 自分が怖い……怖いわ……おほほほほほ!」
いや、それはさすがに誇りすぎのような。
リアクションが極端だなぁ。
内心で苦笑しつつ、俺は戦場を見回した。
とりあえず、魔軍長との戦いは終わったけれど、まだ戦いは続いている。
「残る魔族も片付けないとな」
追い詰められている勇者が少なからずいる。
彼らを助けに行かなければ。
と、
「ライゼル様が倒された……!?」
「馬鹿な、魔王様に次ぐ実力者のはずが……!」
「も、もう駄目だ、おしまいだぁ……」
「逃げろぉぉぉっ……!」
俺が向かうまでもなく、魔軍はいきなり総崩れになった。
魔軍長ライゼルの敗北は彼らの士気に壊滅的なダメージを与えたらしい。
アンデッド軍団は背を向け、一目散に逃げ出した。
────────────────────
スキルレベルアップ。
【虚空の封環】がLV13に上がりました。
【虚空の封環】がLV14に上がりました。
【虚空の封環】がLV15に上がりました。
【虚空の封環】がLV16に上がりました。
【虚空の封環】がLV17に上がりました。
【虚空の封環】がLV18に上がりました。
【虚空の封環】がLV19に上がりました。
【虚空の封環】がLV20に上がりました。
【虚空の領域・第一の扉】の開閉が可能になりました。
扉を開きますか? YES/NO
────────────────────
「おお、一気にスキルレベルが上がったな……!」
さすがに驚いた。
やっぱり相手が魔王の腹心クラスだと、それだけ経験値もたくさん手に入るってことだろうか。
二億以上いるっていう死霊も全部吸いこんだしな。
……って、
────────────────────
【虚空の領域・第一の扉】の開閉が可能になりました。
扉を開きますか? YES/NO
────────────────────
「これ……どういう意味だ?」
虚空の領域?
扉?
一体、なんのことだろう。
「【虚空の領域】ってなんだ? 扉を開くと何が起きる?」
……聞いても、たぶん答えてくれないよな。
────────────────────
扉を開きますか? YES/NO
────────────────────
俺を急かすように、ふたたびメッセージが出た。
案の定、内容の説明はなし。
うーん、なんか嫌な予感がするぞ。
得体が知れないし『NO』にしておくか。
「……いや、待てよ」
扉という言葉から、以前に九尾の里から帰ったときに見た光景を思い出した。
【ブラックホール】の中に潜む、何者か。
あの黒い空間の内部には、誰かが──あるいは何かがいるのか?
扉っていうのを開ければ、それに会えるのか。
だとしたら──。
「興味は、あるな」
このスキルのことは、基本的な使い方なんかは分かるけど、根本的なところは何も知らない。
なぜ俺がこんな力を身に着けたのか。
因果律の外に在る力、とは何か。
どうして、他の誰でもなく俺なのか。
英雄でも勇者でもない。
平凡な冒険者だった、この俺に──。
知りたい。
確かめたい。
いくつもの思いが湧き上がる。
「マグナさん、エルザさん」
と、キャロルが駆け寄ってきた。
勇者たちの治療を終えたんだろう。
俺はふたたび思考をスキルのことに戻す。
やっぱり得体が知れないことに変わりがない。
『NO』で行くか──。
そう思った瞬間、
────────────────────
術者の意志を確認しました。
【虚空の領域・第一の扉】を開きます。
────────────────────
えっ、いや、待て。
俺はちょっと興味を持っただけで──。
慌てる俺の目の前に、黒い魔法陣──【ブラックホール】が出現する。
「待てって。俺の返事は『NO』だから!」
叫んだときには、すでに遅かったらしい。
金色の紋様がまぶしく輝き、魔法陣が中央から二つに割れていく。
さながら、扉のように──。





