6 魔軍襲来
ごご……ごごぉ……んっ……!
強烈な震動が部屋を襲ったのは、そのときだった。
「なんだ──?」
周囲を見回す俺。
「魔の気配が押し寄せてくる」
「人間界と魔界の通路が大きく開いておる」
「魔王め、攻勢をかけてきたか」
モノリス群がひときわ激しく明滅した。
「攻勢って……」
「先ほどから魔王軍が王都に攻め入っている」
俺の問いに答える上層部。
「先遣隊は中ランクの勇者軍に迎撃させているが、どうやら本隊が迫っているようだ」
「この震動は、魔界と人間界の通路が大きく開いたときの衝撃によるもの」
「力ある魔族ほど、より巨大な通路を開かなければ、こちらに来られないからな」
「本隊──」
俺はうめいた。
外にいるキャロルやエルザたちが心配だった。
その本隊が来る前に、俺がなんとかしたい。
みんなを、護りたい。
──というか、すでに魔王軍が攻めてきていたんなら、教えてほしかった。
俺の【ブラックホール】なら一掃できるかもしれないのに。
「本隊到着まで、あと少し」
そんな俺の内心を知ってか知らずか、上層部は淡々と告げる。
まるで、他人事のように。
「すさまじいほどの強大な瘴気を感知している」
「おそらくは上位魔族が複数、さらに魔軍長クラスもいるようだ」
魔軍長というのは、魔王の腹心……簡単にいえば、魔王の次に高いランクの魔族だ。
その力は、下級魔族とは天と地ほどの差がある。
魔王に準ずる力を誇る、最強レベルの魔族──。
「……俺も行きます」
それ以上いても立ってもいられず、俺は言い放った。
「では、君の力を見せてもらおう」
「その後に、先ほどの話の続きをさせてくれ」
「武運を。マグナ・クラウドくん」
「魔を討ち、世界を光で照らす者よ」
謳うような上層部の言葉を、俺はすでに聞いていなかった。
大聖堂から駆け出ると、入口のところにキャロルとエルザがいた。
「マグナさん……?」
「上層部との話は終わったの?」
「いや、魔族が攻めてきたって聞いて、途中で切り上げたんだ」
たずねる二人に、俺は手短に答えた。
「俺も魔族退治に行ってくる」
「それなら、アイラやキーラがもう出て行ったわ」
あの二人はかなり強い勇者だっていう話だしな。
「他にも、選抜された勇者たちが討伐に向かっているわ」
エルザが言った。
「私は討伐メンバーに呼ばれなかったけど、ね」
ぷうっと軽く頬を膨らませる彼女。
「……もしかして、拗ねてるのか?」
「す、拗ねてにゃいわよっ」
噛んでるじゃないか。
「俺、ちょっと行ってくる」
二人に告げる俺。
「マグナさん……?」
「【ブラックホール】で全部吸いこめば、すぐ終わるよ」
「あたしも行くのです」
キャロルが、ひょこっ、と手を挙げた。
「いや、今回は危険そうだぞ」
たぶん、レムフィールでの超魔獣兵迎撃戦よりも、ずっと。
「けが人が大勢出ているかもしれませんから」
「じゃあ、私も」
エルザが立ち上がる。
「出る幕があるかは分からないけど……」
「いいのか? 勝手に出撃したら、怒られるんじゃないか」
「二人が行くなら、私も行くわよ」
エルザがますます拗ねたように言った。
「仲間でしょ」
「……二人とも、俺から離れるなよ」
そう言い含めて出発した。
魔族は西の城門付近を攻めているという。
勇者ギルドからは、中ランクの勇者たちがその迎撃に出撃している。
それより上位の勇者たちは待機しており、敵の本隊到着に合わせて出撃予定なんだとか。
その本隊はまだ来ておらず、現在は勇者ギルドも魔王軍も先遣隊同士が戦っている状態。
アイラとキーラは上位の勇者だけど、戦況打開のために加勢に行ったそうだ。
「あの二人なら大丈夫とは思うけど……魔族もいつになく大軍で来てるようだから」
言いながら、エルザは唇をかんだ。
「心配か、あの二人が?」
「……それは、同期だし」
俺の問いにエルザの表情が曇った。
「アイラもキーラも苦手は苦手だけど。っていうか、エリートはみんな苦手だけど」
ふう、とため息をつく。
「でも──無事でいてほしいわ」
「俺たちも急ごう」
城門を目指し、ひたすら走り続けた。
ふと、空を見上げる。
「あれは……!」
いつの間にか晴天から曇天へと変わった空に、巨大な髑髏のような影が浮かんでいた。
上級魔族の姿か。
あるいは、あれこそが魔王の腹心──魔軍長なのか。





