5 神託
序盤だけルネ視点、後はマグナ視点のお話です。
「さあ、次はどいつだ」
ルネは大剣を構え直し、油断なく周囲に目を配った。
ダークブレイダーたちと勇者たちとの戦闘があちこちで繰り広げられ、完全な乱戦状態である。
と、前方からまばゆい輝きがあふれた。
その光の中を、二つの人影が進んでくる。
「あれは──」
まぶしさに目を細めながら、ルネは前方に目をこらした。
「ダークブレイダー一体に何を手こずっているの」
「しょうがないね。僕らがやるから、君たちは下がっていて」
凛とした声とともに進み出たのは、男女二人組の勇者。
いずれも十代後半くらいだろうか。
ともに肩のところで切りそろえた髪形に、瓜二つの容姿。
少女の方は金髪で、少年は銀髪だ。
「アイラとキーラか!」
「よく来てくれた!」
勇者たちが歓声を上げた。
「あたしたちは第二階位の勇者」
「調子に乗るのもそこまでにしてもらおうかな」
二人が悠然と微笑む。
自信に満ちあふれたその態度だけで、彼女たちが年少ながらも相当の実力者であることを感じさせた。
「第二階位……か」
ルネはごくりと喉を鳴らした。
最強と呼ばれる四人の勇者──『四天聖剣』に次ぐ力を持つ者たち。
それが、第二階位の勇者。
間違いなく、今までの相手とは次元が違う──。
「運が悪かったわね、下級魔族さん」
「僕たちはいずれ『四天聖剣』に上り詰める勇者だ。ダークブレイダーごとき敵じゃない」
女勇者が細剣を、男の勇者は長剣を、それぞれ構える。
「へっ、上等だ」
ルネは愛用の大剣を振りかぶった。
闘志は、萎えない。
野心は、折れない。
「じゃあ、最強を目指す者同士──仲良くしようか!」
さらに強くなるために、ルネは進む。
どこまでも、前へ。
※
勇者ギルド上層部との会談の間──。
俺の前には、三メートルくらいの高さの石板が十枚、浮かんでいた。
それぞれのモノリスには、表面に『01』から『10』までの数字が描かれている。
「ようこそ、マグナ・クラウドくん」
「因果律の外に在る力を持つ者よ」
明滅するモノリス群から声が響く。
どうやら魔導通信端末らしい。
「あの、俺に話というのは……?」
「さっそく本題か」
「まあ、我らとて雑談をする時間などない」
モノリスから順番に声がした。
「君のスキルに、我々は興味を持っている」
「強大極まりない力だ」
「そう、成長すれば──いずれは魔王にすら立ち向かえる力だ、と」
魔王って……。
いや、でも【ブラックホール】なら魔王クラスにも対抗できるんだろうか。
そんなレベルの相手でも、簡単に吸いこめたりするんだろうか。
進んで試したいとは思わないけどな。
「一つ、我々にも君のスキルを見せてくれないだろうか?」
「えっ、【ブラックホール】をですか?」
突然の提案に驚く俺。
「ぜひ、直接見てみたいのだ」
「因果律の外に在るという、その力を」
因果律の外に──。
九尾の狐の長老が言っていたのと、同じ言葉。
「でも俺のスキルって展開すると、なんでも吸いこんじゃうので」
俺はモノリス群を見回した。
正確には『俺が指定した対象を吸いこむ』んだけど。
得体の知れない相手に、そこまで手の内を明かす必要もないだろう。
「力を振るう必要はない。ただスキルの象徴を出してもらえれば、それでいい」
「象徴……?」
「君が力を使うとき、黒い陣が現れると報告を受けている」
「ああ、これですか」
俺は前方に黒い魔法陣型の【ブラックホール】を展開した。
【常時発動防御モード】は敵の攻撃がないと出てこないので、【通常モード】の方に切り替えて出しておいた。
敵対する相手が近くにいるわけじゃないし、大丈夫だろう。
仮に、どこかに敵が潜んでいたら勝手に吸いこんでしまうけど、そのときはそのときだ。
「ほう、これが──」
上層部はいっせいに息を飲んだようだ。
「金色の文字のようなものは──『黙示録の紋様』か?」
「まだ『扉』は開いていないようだが……」
「いや、わずかに開きかけている。その奥にいる存在の気配を感じる──」
「黙示録に記された虚空の──」
何やら思わせぶりな言葉を連発している上層部。
なんだ、すごく気になるぞ。
「ありがとう、大変参考になった」
「……できれば、その『参考になった』内容を教えてほしいんですが」
俺はジト目でモノリス群をにらんだ。
「かつて、魔王は何度かこの世界を滅ぼそうと攻めてきた」
スルーされた!
「『始まりの魔王』ヴェルファー、『巨大なる覇者』ボルン、『真紅の獅子』ロスガート」
「そのたびに力ある勇者たちが、これらを退けてきた」
「我々は君にも彼らのような強き勇者と同じ──いや、それ以上の力があると見込んでいる」
「その力を冒険者ギルドではなく、我らの元で役立てないか」
モノリス群が次々と言葉を発する。
「勇者になれ、ってことですか?」
たずねる俺。
「そうだ」
「確か勇者って、神の武具を扱える人のことじゃ……」
「君ほどの力があれば、そこにこだわる必要はあるまい。特例として第一階位勇者に認定しよう」
「報酬面をはじめ、あらゆる待遇で冒険者ギルドの数倍……いや、数十倍出そう」
「どうかな?」
うわー、露骨な引き抜きだ。
しかも、こっちはスキルを見せたのに、向こうは何も情報を教えてくれないし。
どうにも、うさんくさいなぁ。
そう思いつつ、俺は質問を投げかけてみた。
「なんで急に俺を誘ったんですか?」
俺がスキルを身に着けてから、それなりの時間が経つ。
たまたま、今までノーマークだったのか?
それとも、他に理由があるのか?
「『神託』があったのだ」
厳かに告げる上層部。
「神託……」
「今まで静観していた魔王エストラームが、この世界を狙っている。本格的に動き出そうとしている──」
「立ち向かうため、君にも力を貸してほしい」
「勇者マグナよ」





