4 ルネの戦場
今回は魔族ルネ視点のエピソードです。
次回はマグナ視点に戻ります。
「次は侵攻作戦か。へっ、今度こそ──戦功を立ててやる」
ルネは不敵につぶやいた。
前回はヴェルフ帝国の皇帝に召喚され、マグナ・クラウド暗殺の任を与えられたが、果たせなかった。
現状マグナへの有効な攻撃手段がなく、ルネは皇帝の元まで引き上げて、そう報告した。
咎められることは、なかった。
逆に、マグナの能力について射程や特性の情報を持ち帰ったことを評価されたくらいだ。
それから魔界に戻り、またこうして人間界へやって来たわけだ。
今回の任務は、他のダークブレイダー数百体とともに、人間界への侵攻作戦の先鋒を務めることだった。
本体である魔軍長や上級魔族が到着するまで、少しでも敵の頭数を減らし、かつ敵の陣容を把握すること──それがルネたちダークブレイダー隊の役目である。
相手との戦力差を考えると、ほぼ捨て駒扱いと言ってよかった。
「──ダークブレイダーなんて、使い捨ての雑兵だしな。いつものことか」
ルネは、ふん、と鼻を鳴らす。
数百メートル前方には、そびえたつ城壁と城門が見えた。
勇者ギルドの本部があるという神聖王国セイロード、その王都。
今回の侵攻目標だ。
地上でもっとも守りが固い場所の一つであるここを狙う、ということは、魔王も本腰を入れて人間界を侵略する気になったのだろうか。
「ここには最強勇者の『四天聖剣』もいるんだろ? 俺らが勝てるわけねーよ……」
「いつもいつも、ダークブレイダーは捨て駒扱いだ……」
あちこちから不満の声が漏れ聞こえた。
「昇格しないかぎり、下級魔族なんてずっとこんな役回りだ」
ルネはフルフェイスの兜の下で顔をしかめた。
今までにも人間界への侵攻や魔族同士の小競り合いなどで引っ張り出されたことは何度かある。
そのたびに、同じ役回りだった。
ルネの戦友たちは一人、また一人と散っていった。
だが彼だけは、生き延びてきた。
「今回も絶対に──」
決意を新たにしたそのとき、城壁の向こうから勇者の一団がやって来た。
魔族の、掃討部隊だろう。
「奴らの持つ奇蹟兵装は第四から第六階位程度と推測。中ランクの勇者たちだ。気を抜くな」
指揮官を務める魔族がルネたちに指示した。
中ランクの勇者は、ダークブレイダーのような下級魔族からすれば格上の相手だ。
通常は数体で、強い相手なら十体以上で囲んで、勇者一人を仕留めるのがセオリー。
それだけの、力の差がある。
「けど──それくらいの連中を一人で倒せなきゃ!」
ルネは地を蹴り、突進した。
「上にいけねぇだろうが!」
先頭の勇者に大剣を叩きつけた。
ぎんっ!
腹に響くような金属音とともに、勇者が長剣でルネの斬撃を受け止める。
「ぐっ……!」
ルネは兜の下で顔をしかめた。
「重い──」
そのまま大きく吹っ飛ばされる。
ルネは空中で器用に回転し、着地した。
「魔族め! 王都には一匹も入れんぞ!」
勇者が凛とした口調で叫ぶ。
「今までなら、やばい相手だったかもな。けど──」
ルネは大剣を構え直した。
なぜだろう?
今は──負ける気がしない。
四肢に力が湧き上がるようだ。
明確な目標ができたからか。
はっきりとした『強さ』のイメージができたからか。
あらゆるものを寄せつけず、瞬時に倒す──。
そのイメージが、ルネに力を与えてくれる。
闘志を、与えてくれる。
「俺もその領域に行く! 俺は、俺のやり方で!」
ふたたび、先ほどの勇者に突進した。
斬撃同士が激しくぶつかる。
今度は──押し負けなかった。
「お前のパワーはもう覚えた。確かに強いが、対応できる」
ルネが、押す。
さっきとは逆に、勇者の方が後退する。
「な、なんだ、こいつ……!?」
勇者が驚いたようにルネを見た。
「下級魔族のパワーじゃない……!?」
左右から、さらに三人の勇者が駆けつける。
四対一──勇者とダークブレイダーの戦力差から考えれば、絶望的な状況だ。
他のダークブレイダーたちも、すでに勇者たちと交戦しており、助けは期待できない。
「お前ら勇者は『心の力』で武具を操るらしいな」
それでも、ルネは笑った。
四人の勇者に真っ向から打ちかかる。
勇者たちは剣や槍、斧といった各種の奇蹟兵装で応戦してきた。
ルネは剣を振り、あるいは距離を取ってナイフを投げる。
四対一でも決して気後れすることはない。
むしろ、彼らの方が気圧されているくらいだった。
その証拠に、先ほどのような攻撃の重さを感じない。
「ひるんでるんじゃないのか? 武具のパワーが落ちてるぜ!」
ルネが喜色の叫びを上げた。
「勝機はここだ──」
大剣を竜巻のように旋回させる。
封神斬術、風裂閃。
一対多数用の斬撃で、勇者たちを四人まとめて吹き飛ばす。
(いける──!)
ルネは手ごたえをつかんでいた。
己の力が以前よりも高まっているのを感じる。
俺は、強くなっている──!





