3 大聖堂へ
※お遊び気分でタイトル変更中です。混乱させてしまったら申し訳ありませんm(_ _)m
こういう、おふざけっぽいタイトルを前からやってみたかったので……w
そこは世界で唯一、神と交信できる地だという──。
そんな伝承を持つ、神聖王国セイロード。
ラムド王国の二つ隣にある大国である。
俺たちは馬車を乗り継ぎ、ここまでやって来た。
王都に入り、勇者ギルドの本部『大聖堂』の側まで到着する。
大聖堂は、美しい白亜の宮殿だった。
周辺には勇者用の訓練施設や宿舎などが点在している。
俺とキャロル、エルザは双子勇者に案内され、大聖堂へ続く道を進んだ。
「あれは何やってるんだ?」
前方で、何十人もの少年少女が列を作っていた。
「適性検査よ」
答えたのは双子勇者のうち、姉のアイラだ。
「適性……検査?」
「勇者とは、どういう人間を指すか分かる?」
淡々と告げるアイラ。
「神の武具を操る素質を持った人間……でいいのか」
「そうね。正確に言えば、神の力を具現化する武具──『奇蹟兵装』と適合する精神の波長を持ち、これを起動させる力を持つ素質者を指すの」
「奇蹟兵装……か」
勇者にしか操れない、神の武具。
エルザが持つ盾──スヴェルもその一つである。
「彼らは、ギルドが世界中から見つけ出してきた素質者……勇者候補生ね」
アイラが前方の列を指さした。
適性検査をやっている場所では、剣や槍、斧など無数の武器が地面に突き立てられていた。
「次、13番!」
「うおおおっ!」
呼ばれた少年が武器群のひとつに触れ、気合いの声を上げる。
「奇蹟兵装、適合率32%……よし、次は14番!」
検査官らしき男の言葉で、今度は少女が進み出て、同じように武器に触れる。
「懐かしいわね。私も三年前にここで適正審査を受けたわ」
エルザが遠い目をしてつぶやいた。
「……結果は最低階位だったけれど」
「でも、いつか最強になることを目指してがんばったんだろ?」
と、俺。
「心の強さがあれば、才能なんて覆せる──そう信じたんだけどね」
はあ、とエルザはため息をついた。
「才を持つ者は心もそれに応じて強い──いえ、あるいはその心の強さこそが才なのかしら。私にはその強さがなかった」
「そうね。あなたには才能がない」
「勇者の世界ではそれがすべてだね」
アイラとキーラが言った。
「……いや、わざわざエルザの気持ちにトドメをささなくても」
やっぱりランクの高い勇者にとっては、最低ランクのエルザは見下す対象でしかないんだろうか。
冒険者の世界で、高ランクの人間が低ランクを見下すみたいに。
「それはあなたにも分かるのでは?」
アイラが俺を見た。
涼しげな瞳だ。
「あなたの力は鍛錬に依拠する『技術』ではなく、才能によって定まった『異能』でしょう?」
「僕らには才能があり、彼女にはなかった。それ以上でも以下でもない」
「そこにくだらない感傷はいらない。あたしたちは事実だけを見ている」
「事実だけを……」
つぶやく俺。
彼らは、別にエルザを馬鹿にしているわけじゃないようだ。
事実を、事実として受け入れる──ただ、それだけ。
才能がすべてを支配する世界……か。
エルザはずっとその世界でがんばり、そして最低階位のまま上に行けなかった。
だから冒険者の世界に来た……。
きっと、いろんな葛藤があったんだろうな。
俺たちの間で沈黙が流れる。
なんとも重い空気だ。
「ですが、エルザさんはそれでも諦めなかったのです」
それを破ったのは、キャロルだった。
「冒険者をやっているのも、心の強さを身に着けるため……勇者とは違う環境に身を置き、自身の変異を促すため──違いますか?」
「……私はいずれ最強の勇者になる。今はまだ、その途中というだけよ」
エルザの顔にようやくかすかな笑みが浮かぶ。
「それでこそエルザさんなのです。あたしは、そんなエルザさんが好き」
「キャロル……」
エルザの笑みが深まった。
少し元気を取り戻したのかな?
キャロルには、そんな力がある。
身に着けた治癒能力だけじゃない──ちょっとした言葉が、笑顔が、元気をくれる。
心を、癒してくれる。
「ありがと、慰めてくれて」
言って、エルザはキャロルの頭を撫でた。
ついでのように、狐耳も。
あ、また不意打ちもふもふか!
「きゃふっ、でも、今日は特別なのです。いっぱいもふもふしてもいいですよ、エルザさん」
「ほんと? やったー!」
相好を崩したエルザは、キャロルを思う存分もふもふしたのだった。
羨ましい……。
「もふもふ……羨ましいわね」
「僕もだ……」
アイラとキーラの姉弟までエルザを羨望のまなざしで見ていた。
大聖堂の前までやって来た。
あらためて間近で見ると、その荘厳さに圧倒される。
まさしく、神にもっとも近い場所だと実感する──。
「エルザとキャロルはここまでよ。あたしたちも『大聖堂』内には入れない。悪いけど、ここから先はあなた一人で行ってちょうだい、マグナ」
「よろしく頼むよ」
アイラとキーラが言った。
「俺一人で行くのか?」
緊張するんだが。
「『大聖堂』には上層部と選ばれた勇者しか入れないから」
アイラはそっけない。
「そういうことなら……しょうがないか」
「行ってらっしゃい、なのです」
キャロルが微笑み混じりに手を振る。
その隣でエルザが、
「大丈夫よ。取って食われたりはしないから…………………………たぶん」
おい、最後に『たぶん』って言ったよな!?
──ともあれ、俺は大聖堂内に入った。
案内の人が来て、そのまま最奥まで進む。
ホール状の部屋があり、そこからは俺一人で入るようだった。
重いドアを開き、中に足を踏み入れる。
すると──、
「ようこそ、マグナ・クラウドくん」
「因果律の外に在る力を持つ者よ」
明滅する巨大な石板が十個、俺の前に浮かび上がった──。





