2 姉弟勇者
エルザの同期だという双子の姉弟、アイラとキーラ。
ともに彫像のように端正な顔立ちは、男女の違いはあるものの、造形がそっくりだった。
姉のアイラは金色の髪、弟のキーラは銀色の髪を、それぞれ肩のところで切りそろえている。
二人とも動きやすそうな軽装に、大きな肩当てとマント。
アイラは腰に細剣を差し、キーラは巨大な剣を背負っていた。
「勇者ギルドでは落ちこぼれでも、冒険者業界でも名前を上げてるみたいじゃない」
「君って、冒険者の方が向いているんじゃないかな?」
双子の勇者がにっこりと笑った。
「放っておいてちょうだい」
エルザの表情がこわばる。
「……もしかして、仲が悪い相手なのです?」
キャロルが小声でそっとたずねた。
「苦手なだけよ」
はあ、とため息をつくエルザ。
「同期といっても、向こうは第二階位の智天使級奇蹟兵装の使い手。末は、最強勇者の称号である『四天聖剣』まで上り詰めると噂される逸材。対して私は、最低階位の天使級奇蹟兵装の使い手。差は歴然……でしょ」
なるほど……彼女にとって『劣等感を刺激される相手』って感じなのか。
「でも、用があるのはあなたじゃない。そっちよ」
言ったアイラが見たのは──俺だった。
ん?
「あらためて自己紹介するわね。あたしはアイラ、彼は弟のキーラ。ともに勇者ギルドに所属する第二階位の勇者よ」
濡れたような瞳や艶然とした笑みには、十代らしからぬ色香があった。
「今日は君を招待しに来たんだ。Aランク冒険者、マグナ・クラウドくん」
キーラが微笑む。
こちらも同性さえゾクリとさせるような色気がある。
姉弟そろって異様に色っぽい双子だ。
「招待?」
「我らが勇者ギルドの本部が、ね。君のスキルに興味があるそうだ」
「今から、あたしたちと一緒に本部がある『大聖堂』まで来てちょうだい」
「招待って、なんで俺を……?」
あまりにも唐突な話だった。
「神託が下ったのよ」
アイラが厳かに告げる。
「あなたは──神と魔の戦いに、大きくかかわる者だそうよ」
「『大聖堂』があるのは神聖王国セイロード。ここからなら約三日の行程ね」
セイロードって、ここから国を二つくらい隔てた場所にあるよな。
さすがに遠いぞ。
「だいたい、勇者ギルドに来い──なんて、いきなり言われても」
俺は困惑していた。
そもそも冒険者と勇者は、基本的にかかわりのない職種だ。
強大な魔族が現れたときに共闘することも、まれにあると聞くが。
俺だってエルザと出会わなければ、一生勇者とかかわることさえなかったかもしれない。
「彼と戦いを共にしてきたあなたたちも一緒に、ね」
そんな俺の戸惑いを無視して、アイラがキャロルとエルザを指さした。
「三人そろってギルドの総本部に来てほしいんだ。どうかな?」
と、キーラ。
「神託とは、神の意志。勇者であろうとなかろうと、逆らうことなど許されないわ」
アイラが俺を見据えた。
神託って、なんで俺が……?
意味が分からなさすぎる。
「気が進まないようね」
アイラが眉を寄せた。
「神託に逆らう気?」
「まあまあ、姉さん」
険しい表情のアイラをとりなすように、キーラが微笑んだ。
「こう考えたらどうかな? たとえば、君は──自分のスキルをどこまで知っている?」
「えっ」
「たぶん、そのスキルは君にとっても未知の部分が大きいんじゃないかな。なぜ、これほどの威力があるのか? なぜ、突然身についたのか? なぜ、自分が選ばれたのか? このスキルの根源はなんなのか──」
キーラの言葉に、俺は押し黙った。
確かに、気になるのは事実だ。
俺は自分のスキルについて、知っているようで、何も知らないのかもしれない。
彼女たちについていけば、【ブラックホール】について何かが分かるかもしれない。
以前に垣間見た【ブラックホール】の中にいる何者かについても。
「どうかな? 知りたくない?」
俺の内心を見透かしたようにキーラがたずねる。
ごくり、と息をのんだ。
「マグナさん、あたしはあなたの決断に従うのです」
キャロルは真顔だった。
「キャロル……」
「だってマグナさん、知りたそうな顔してるのです。スキルのことが気になる、って。それを解き明かせるかもしれないなら、行ってみたい──って」
「けど、遠いぞ」
「いいじゃない。連日のように討伐してるんだし、ちょっとくらい休んでも」
エルザが悪戯っぽく笑う。
「私も『大聖堂』にはちょっと興味あるかな」
「……じゃあ、行ってみるか?」
「なのです」
「いいわよ」
──というわけで、俺はキャロルやエルザとともに、その『大聖堂』という場所に向かうことになった。
世界中で八万を超える勇者たちを束ねる国際組織、それが勇者ギルドだ。
『大聖堂』はその総本山ともいえる場所。
本来なら、部外者はもちろん勇者であっても、限られた者しか立ち入れないんだとか。
そこで俺たちを待ち受けるのは、一体なんなのか──。





