8 スキル考察
よく考えたら、敵を吸引するときには、【通常モード】と【常時発動防御モード】を併用しても意味ないな。
【通常モード】を張っておけば、攻撃も防御も両方に対応できる。
『併用』ではなく『切り替え』なら射程も減らないし。
……ゾンビをすべて倒した後、俺はそのことに気づいた。
普段の生活では、【常時発動防御モード】を張っておいて、今回みたいな不意打ちをすべてシャットアウト。
実際に敵と相対したときには、【通常モード】に切り替える。
──よし、次からはそういう使い分けをしよう。
俺はいったん【通常モード】を解除し、【常時発動防御モード】のみを残した。
「怪我はないですか、長老」
「私は大丈夫です。いや、それにしても──すさまじいですな、マグナ殿のスキルは」
長老が言った。
と、
かたかたかた……。
骨を打ち鳴らしながら、骸骨でできた兵士が数百メートル前方から歩いてくる。
夜道だけに、かなり怖い光景だ。
「スケルトン……か」
こいつもアンデッド系の下級魔族である。
「しょせん人間相手だ。こそこそ隠れて襲撃する必要などない」
「力押しで殺してやるぞ、ふひひ」
スケルトンたちが威嚇するように剣を振り上げた。
「今日は次から次へと魔族が襲ってくるな……」
俺は苦笑をもらす。
まったく、俺が何をしたっていうんだ。
「これほど多くの魔族が里にやって来るのは、初めて見ます」
と、長老。
「私はこの里の長老ダハル。君たちは何者だ? 我らの里に何用か」
毅然と言い放つ。
かたかたかた……。
スケルトンたちは答えず、片刃の剣を振り上げ、円形の盾をかざして近づいてくる。
しゅおんっ……。
スケルトンたちが500メートル内に近づいた瞬間、俺の前方に黒い魔法陣型の【ブラックホール】が出現し、奴らの剣を吸いこんでしまった。
「なっ、武器が……!?」
「え、ええい、ひるむな……」
戸惑った様子を見せつつも、スケルトンたちはなおも近づいてくる。
よし、また【通常モード】に切り替えて──。
と思ったところで、考え直す。
ちょうどいい機会だ。
【常時発動防御モード】のスキル効果をチェックしておこう。
「長老、少し下がっていてください。俺が奴らの相手をします」
言って、前に進んでいく。
「な、舐めるなよ、人間!」
スケルトンは武器を失ってもなお、パンチやキック、さらに盾を鈍器代わりに使って、俺を攻撃した。
そのすべてが【ブラックホール】に吸い寄せられ、軌道を強引に変えさせられる。
奴らの攻撃は俺に一発も当らず、かすりもしない。
どの打撃も【ブラックホール】に空しく叩きつけられるだけ。
「だ、駄目だ、当てられない……」
「触れることもできない……」
表情がないはずのスケルトンたちの顔に、どことなく恐怖の色が浮かんでいるように見えた。
「……なるほど、防御モードはあくまでも『敵の攻撃』しか吸いこめないわけか」
つまり、この現象は『武器や打撃の衝撃だけを吸引している』ってことだな。
一つ、確認できた。
ダークメイガスのときも、攻撃呪文を全部吸いこんでいたけど、ダークメイガス自体は吸いこめなかった。
おそらく【常時発動防御モード】は敵の武器や魔法ならそのまま吸いこみ、敵が肉体で直接攻撃してきたときは、『その衝撃や効果だけ』を吸いこむんだろう。
つまり、敵自体は吸いこまない。
敵を吸いこむには【通常モード】に切り替えるか、併用する必要がある。
──こんなところだろう。
「よし、【通常モード】に切り替えろ」
俺の指示と同時に、
しゅおんっ……!
魔法陣が金色の光を放ち、スケルトン四体を一瞬で吸いこんだ。
あいかわらずの瞬殺ぶりだ。
ちなみに【通常モード】単体に切り替えても、【ブラックホール】はこのデザインのままらしかった。
スキル効果が増えた影響で形が変わったのか、それとも別の要因なのか。
「ちょっとアクシデントもありましたけど、行きましょうか」
俺は長老を促した。
自分のスキルへの興味が増していた。
長老の見せたいもの、というのが【ブラックホール】についての知識を深めるものなら、知っておきたい。
そう思ったのだ。
「では、こちらへ。案内いたします」
長老がふたたび先導し、俺たちは歩き出す──。





