7 常時防御無双
「ちっ、自動防御系のスキルか? 不意打ちは通用しないようだな」
「ならば、囲んで力押ししかあるまい」
闇の中からにじみ出るようにして、魔法使いのような姿をした下級魔族──ダークメイガスが現れた。
数は、全部で五。
「なんでこんなところに魔族が……?」
俺は長老の方を見た。
「そういえば、魔界とつながってる鳥居があるんでしたっけ?」
「確かにつながっていますが……魔族がこの里で狼藉を働くとは思えません」
困惑した様子の長老。
「彼らとて理性もあれば、守るべき不文律もあります。通常なら、こんなことは……」
ダークメイガスたちはいっせいに杖を構えた。
「『ファイア』!」
「『サンダー』!」
「『ウィンド』!」
「『ウォーター』!」
火球が、雷撃が、旋風が、水流が──。
ダークメイガスの放つ攻撃呪文が殺到する。
しかし、それらは俺の前面に展開された黒い魔法陣型の【ブラックホール】に吸いこまれるのみ。
ただ、相手の攻撃呪文はどんどん吸いこんでるけど、ダークメイガス自体を吸いこんでいない。
五体とも数十メートル内にいるし、有効射程内のはずなんだが……。
「もしかして、これって『防御』だけのスキルなのか? 敵本体を吸収するような『攻撃』もいつも通りできるのか?」
中空に向かってたずねる。
──メッセージは現れなかった。
「うーん、駄目か」
どうもあのメッセージって、なんでも教えてくれるわけじゃないみたいだ。
スキルがレベルアップしたときや、新たなスキル効果などを習得したとき、そしてその効果の選択絡みについては細かく問いかけてきたり、答えてくれる。
だけど、純粋に能力の内容についての問いかけはスルーされてしまう……のか?
まあ、とりあえずは、
「奴らを吸いこめ」
俺はそう指示した。
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対象本体を吸いこむためには【通常モード】を起動する必要があります。
【通常モード】と【常時発動防御モード】を併用します。
スキル効果を重ねたことで、射程距離が80メートルに減少します。
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ん、射程が減少?
ヴ……ン!
うなるような音を立て、黒い円が振動する。
表面に刻まれた黄金の紋様が輝きを放つ。
そして──、
しゅおんっ……!
ダークメイガスたちはいずれも【ブラックホール】の中に吸いこまれた。
射程が減少、とか気になるメッセージが表示されてたけど、敵は全員が80メートル内にいたらしく、特に問題はなかったようだ。
とりあえず、討伐は終わったかな。
※
「ダークメイガスたちが一瞬で吸いこまれた、だと」
声は、地中から響いた。
動死体──アンデッド系の下級魔族である。
それが全部で四体、ターゲットの地下100メートルほどに潜んでいた。
彼らが取った作戦は、地中を移動しての奇襲攻撃。
ときおり地面に顔を出し、周囲をうかがいながら、根気強くターゲットを探し続けた。
そして、ダークメイガスらしき一団とターゲットとの戦闘の気配を察知して、ここまでやって来たのだ。
「地中からならどうだ」
「奴の能力はあくまでも直線」
「地面の下からの予想外の不意打ちには対処できまい」
「そうだな。奴がスキルを使うための、一瞬の集中時間すら与えん」
四体のゾンビたちが相談する。
「即、切り裂いてやる」
言うなり、四体は地面を掘り進み、一斉に上昇した。
地面に伝わるわずかな反響音からターゲットの行動を察知する。
どうやら彼は、こちらの存在に気付いてすらいないようだ。
「いけるぞ!」
ゾンビたちが地上へと向かっていく。
あの人間を殺せば、中級魔族に格上げしてもらえる。
歓喜とともに、夢中で地面を掘り進み──。
ごぼぉっ!
次の瞬間、すさまじい力で体を引っ張りあげられた。
※
ごぼぉっ!
俺の足元でいきなり地面が爆裂した。
「なんだ……?」
同時に、土の中から現れる四体の腐乱死体たち。
こいつらは、確か下級魔族のゾンビ……?
しゅおんっ……!
ゾンビたちは、いずれも俺の【ブラックホール】に吸いこまれた。
「まだ敵がいたのか」
というか、地面の下にいたなんて全然気づかなかった。
どうやら【ブラックホール】の射程は直線状じゃなく、俺を中心とした全周囲に伸びているらしい。
まだまだスキルについて知らないことがあるな……。





