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6 封神斬術

今回は魔族のルネ視点です。次回はマグナ視点に戻ります。

 ──時間は少しさかのぼり、マグナが宴を楽しんでいるころ──。




「ここが九尾の狐の里か」


 下級魔族──『闇の剣士(ダークブレイダー)』のルネは他の魔族たちとともに、里に降り立った。


 魔界と里との通路である『闇の鳥居』を抜け、今は深い森の中にいる。


 森の向こうには集落の明かりが見えた。

 そこにターゲットである『マグナ・クラウド』がいるはずだ。


「奴を殺した者は、中級に取り立てる──魔王様はそうおっしゃった」

「絶対に殺してみせるぜぇ……ふへへ」

「へっ、中級になるのは俺だ」

「いや、俺だね」

「私だ」


 あちこちから声が聞こえる。


 ここにいるのは十八体の魔族だ。

 ルネと同じダークブレイダーが三体、スライムやアンデッド系が四体ずつ、そして魔術師系の下級魔族『闇の魔術師(ダークメイガス)』が六体。


 召喚者であるヴェルフ皇帝から彼らに課せられた使命は一つ。

 冒険者マグナ・クラウドの抹殺だ。


「早い者勝ち、ってことでいいんだよな?」


 ルネが彼らを見回した。


 黒い全身甲冑をまとい、闇夜に赤い眼光だけが瞬く。

 闇の騎士、といった出で立ちの完全武装モード。


 他のダークブレイダーも似たような格好になっているし、他の魔族たちもそれぞれ戦意をみなぎらせていた。


「手柄を得るのは一人だけである以上──そうなるな」


 魔族の誰かがうなずいた。

 全員が、野心に満ちた雰囲気だった。


 それこそ、ターゲットの奪い合いで今すぐ同士討ちに発展しかねないほどに。


(へっ、奴を仕留めるのは俺だ。お前らなんかに負けるかよ)


 ルネは内心でつぶやき、あらためて周囲を見回した。


 今は夜だ。

 月は雲間に隠れ、闇夜に近い。


 暗殺を行うシチュエーションとしては好都合だった。


(ターゲットはマグナ・クラウド。使用スキルは『吸収』系統……だったな)


 ルネは頭の中で情報を再整理する。


 並の人間など、彼の敵ではない。

 下級とはいえ、幼いころから魔界で剣の修業に明け暮れた彼は、剣技だけなら中級や上級の魔族にすら引けを取らないと自負している。


 だが、相手は竜ですら一瞬で飲みこむような超絶のスキルの持ち主らしい。

 さすがに正面から立ち向かうのは危険である。


(手段は一択。奴にいっさい気づかれず、先制攻撃で絶命させる──)


 つまり、徹底的な隠密行動が必要だ。


(今回は剣よりも、こっちの出番か)


 ルネは胸のベルトに差した投げナイフを見下ろす。

 剣の方は、マグナが連れている仲間や里の獣人たちと戦闘になったときには使うかもしれないが、ことマグナ暗殺においては出番がなさそうだった。


 ルネは足音を殺し、集落に向かって進む。


 他のルートから集落に向かう者。

 その場にとどまり、作戦を練る者。


 そしてルネと同じ道を行くダークブレイダー二体とダークメイガス一体。


「──いたぞ。茂みの向こうだ」


 ダークメイガスが手にした杖で前方を指示した。


「よし、そいつは俺がいただく!」


 ルネは勢いこんで走り出す。


「──うわっ!?」


 そのとたん足元に何かが引っかかり、バランスを崩した。

 無様に転んでしまうルネ。


「悪いな。早い者勝ちだ」


 言ったのは、自分と同じダークブレイダーだった。

 彼がルネの足を引っかけたのだ。


「お前は腕が立つ。あいつを仕留める可能性が一番高いのはお前かもしれん。だからこそ──ここで眠ってもらう」


 もう一体のダークブレイダーが長剣を抜き、倒れたままのルネに斬りかかってきた。


「お、おい……!?」


 慌てて起き上がり、距離を取るルネ。


「お前ら……?」

「悪いな。君の注意を引くために嘘をついた」


 ダークメイガスが淡々と告げた。


「強力なライバルをまずつぶすのは定石だろう?」

「ふざけやがって……」


 ルネの胸の奥に暗い炎が燃え上がる。


「ふざけてなどいない。この一件を成功させただけで中級に格上げしてもらえるなど、我ら下級魔族にとっては破格の報酬。絶対に逃せない」


 と、ダークメイガス。


「そういうことだ」


 長剣を手にしたダークブレイダーが告げる。


「無論、俺たちも互いに競争相手だが、まずお前をつぶす──という点で利害が一致してな。死んでもらうぞ」


 刀を構えたダークブレイダーが言い放った。


「三対一か、上等だ」


 ルネが口の端を吊り上げて笑う。


「お前らは一人じゃなんにもする勇気がないんだよな? だから手を組んで、襲いかかる。けど、俺は違う」


 俺は、一人でいい。


「自分の力で、どんな局面も切り開く。ずっとそうやって生きてきた──」


 そうやって生きていく先に、彼が求めるものがあるはずだ。

 真の、最強魔族への道が。


 ルネは背中の大剣を抜き、八双に構えた。


「その構えは……!」

「こっちもその気でいかせてもらうぜ」


 封神斬術(ほうしんざんじゅつ)

 先代の魔王──『虐殺の騎士王』ヴリゼーラが生み出し、魔界に広く伝わる最強の正統派剣術。


 ルネが幼いころから修練を続けてきた剣技である。


「これは競争じゃない。殺し合いだ!」


 地を蹴り、一息に間合いを詰める。


「は、速い!?」

「馬鹿な、俺たちと同じダークブレイダーがここまで!?」

「鍛え方が違うんだよ、お前らとは!」


 吠えて大剣を振るうルネ。


 一閃。

 長剣を手にしたダークブレイダーの首が飛ぶ。


 一閃。

 刀を構えたダークブレイダーが真っ二つになる。


「ひ、ひいっ……『ファイア』!」


 ダークメイガスが悲鳴を上げながら、火炎呪文を放った。


「遅えよ」


 すでにその射線上にルネの姿はない。

 特殊な歩法で、一瞬にしてダークメイガスの背後に回りこんだのだ。


「なっ……!?」

「じゃあな」


 一閃。

 ルネの斬撃がダークメイガスを両断した。




「ちっ、余計な戦闘ですっかり出遅れちまった」


 ルネは舌打ちまじりに走る。

 森を抜け、集落に侵入した。


 村人に見つからないように注意しながら進むと、数百メートル前方で人の気配を察知した。


「誰かいやがるな」


 目をこらす。


 人間と九尾の狐が並んで歩いている。

 人間の方は、聞いていたマグナの目鼻立ちと一致した。


(ターゲット発見)


 ニヤリと笑うルネ。

 と、


「──『ファイア』」


 そんな声がどこかから小さく聞こえた。

 虚空から火球が出現し、前方を歩くマグナに向かっていく。


 魔族の誰かが、不意打ちの攻撃呪文を放ったのだろう。


「くそ、先を越されてたまるか……!」


 ルネは焦って飛び出そうとする。


 が、次の瞬間、


 しゅおんっ……!


 火球が唐突に消滅した。


「えっ──!?」


 ルネは呆然と立ち尽くす。


「消えた……?」


 いや、違う。

 吸いこまれたのだ。


 マグナの前方に突然現れた、黒い魔法陣のような何かに──。

いつの間にやら7000ポイントを超えていました。読んでくださった方、ブクマ評価入れてくださった方、本当にありがとうございます!

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