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「もふもふもふっ、と」


 俺はキャロルの尻尾の感触を楽しんでいた。


「きゃふっ、やっぱりくすぐったいのです」

「じゃあ、私は耳を失礼して──」

「きゃんっ」


 エルザが狐耳をさすると、またくすぐったそうに体をよじるキャロル。


「三人は本当に仲がよろしいのですな」


 ダハル長老がやって来た。


「楽しんでおられるようで何よりです」

「俺たちのために宴を開いてくださって、ありがとうございます」


 俺はあらためて長老に礼を言った。


「あなた方のもてなしに、感謝するわ」


 エルザも一礼する。


「感謝しているのは、こちらの方です。あなた方のおかげで里は救われましたので」


 言って、長老が俺をちらりと見た。


「先ほどの話ですが……後ほど、あらためてさせていただきたい」


 と、耳打ちする。


「えっ」

「マグナ殿にお見せしたいものがあります」


 それって、スキルに関係することだろうか。


「二人で内緒話なのです?」


 キャロルがにっこりと俺にすり寄ってきた。

 酔いが回っているのか、ちょっとふらついている。


「お、おい、大丈夫か?」

「へーきなのれす……ふにゃあ」


 言いながら、キャロルは俺にしなだれかかってきた。


 ぐにゅうっ。


 柔らかくて豊かな膨らみが、俺の腕やら胸やらに思いっきり押し付けられた。

 蕩けそうな感触だった。


「むむむ……」


 エルザが俺たちを見て、なぜか険しい表情になる。


「あ、すみません……力が入らなくて……」

「ずるいわよ、キャロルばっかり」


 言いながら、なぜかエルザもすり寄ってきた。

 謎の対抗心だった。


「ふむ、本当に仲がよいようですな。では、後ほど……」


 長老は微苦笑を浮かべて、去っていった。

 と、


「いつも娘がお世話になっております」


 入れ替わりで、今度はキャロルの両親らしき獣人たちがやって来た。


「もう、この娘は……」


 俺にしなだれかかっているキャロルを見て、苦笑する両親。


「ど、どうも……」

「人見知りがちなこの娘が、あなたたちには気を許している様子。どうか、これからも仲良くしてやってください」

「根はいい子なので」

「ええ、いい子なのは俺たちも感じています」

「一緒にいて、いつも楽しいわよ」


 俺とエルザがにっこりと答えた。


「すっかり懐いて……ふふ」


 キャロルの母親が彼女を、そして俺を交互に見た。


「本当に……よろしくお願いしますね」


 笑顔でもう一回、頼まれた。




 宴が終わり、俺は長老とともに夜道を歩いていた。

 ちなみにエルザはキャロルと一緒に、彼女の実家に行った。


 俺は後からそこへ行くことになっている。

 長老の要件が済んだ後で。


「あの、見せたいものって──」

「あなたのスキルに関係するかもしれないものです」


 と、長老。


「この里に古来より伝わる文書がありましてな。あるいは、あなたのスキルはそれに記された事象と──」


 その言葉の途中で、


 ヴンッ……!


 うなるような音とともに、俺の前方に黒い何かが出現した。


 直径二メートルくらいの、漆黒の円。

 その内側には複雑な金色の紋様が描かれていて、魔法陣を思わせる。


「なんだ、これ……?」


 ほぼ同時に、夜闇を赤い輝きが照らした。


 無数の、火球。


 まずい──【ブラックホール】を展開しないと!


 スキルを発動するには、一瞬の集中力のタメが必要だ。

 間に合うか……?


 焦りながら、【ブラックホール】を出そうとするが、


 しゅおんっ……!


 その必要もなく、すべての火球が黒い魔法陣の内部に吸いこまれた。


「ん、もしかしてこれって……【ブラックホール】か?」


 いつもは黒い闇のモヤって感じの外観だけど、それが変化している。


 だとしたら、俺の意志とは関係なしに、勝手に【ブラックホール】が出現した、ってことになるな。

 一体、どういうことだ……?

 と、


「マグナ殿! 向こうからも攻撃の気配が!」


 長老が叫んだ。


「『サンダー』!」


 呪文が響き、今度は無数の雷撃が俺に向かってくる。


 次から次へと、なんなんだ?

 俺は平然とそれを見ていた。


【ブラックホール】があるかぎり、どんな攻撃も俺には届かない。

 俺の仲間として認識している長老にも、だ。


 雷撃はすべて魔法陣──【ブラックホール】内に吸いこまれる。


「──そうか、これが」


 俺はようやく理解した。


 先日の帝国での戦いで、スキルレベルアップした際に追加されたスキル効果──。


常時発動防御(パッシブガード)モード】。


 それを発現したのが、この新たなフォルムの【虚空の封環(ブラックホール)】なんだ、と。

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