5 新モード
「もふもふもふっ、と」
俺はキャロルの尻尾の感触を楽しんでいた。
「きゃふっ、やっぱりくすぐったいのです」
「じゃあ、私は耳を失礼して──」
「きゃんっ」
エルザが狐耳をさすると、またくすぐったそうに体をよじるキャロル。
「三人は本当に仲がよろしいのですな」
ダハル長老がやって来た。
「楽しんでおられるようで何よりです」
「俺たちのために宴を開いてくださって、ありがとうございます」
俺はあらためて長老に礼を言った。
「あなた方のもてなしに、感謝するわ」
エルザも一礼する。
「感謝しているのは、こちらの方です。あなた方のおかげで里は救われましたので」
言って、長老が俺をちらりと見た。
「先ほどの話ですが……後ほど、あらためてさせていただきたい」
と、耳打ちする。
「えっ」
「マグナ殿にお見せしたいものがあります」
それって、スキルに関係することだろうか。
「二人で内緒話なのです?」
キャロルがにっこりと俺にすり寄ってきた。
酔いが回っているのか、ちょっとふらついている。
「お、おい、大丈夫か?」
「へーきなのれす……ふにゃあ」
言いながら、キャロルは俺にしなだれかかってきた。
ぐにゅうっ。
柔らかくて豊かな膨らみが、俺の腕やら胸やらに思いっきり押し付けられた。
蕩けそうな感触だった。
「むむむ……」
エルザが俺たちを見て、なぜか険しい表情になる。
「あ、すみません……力が入らなくて……」
「ずるいわよ、キャロルばっかり」
言いながら、なぜかエルザもすり寄ってきた。
謎の対抗心だった。
「ふむ、本当に仲がよいようですな。では、後ほど……」
長老は微苦笑を浮かべて、去っていった。
と、
「いつも娘がお世話になっております」
入れ替わりで、今度はキャロルの両親らしき獣人たちがやって来た。
「もう、この娘は……」
俺にしなだれかかっているキャロルを見て、苦笑する両親。
「ど、どうも……」
「人見知りがちなこの娘が、あなたたちには気を許している様子。どうか、これからも仲良くしてやってください」
「根はいい子なので」
「ええ、いい子なのは俺たちも感じています」
「一緒にいて、いつも楽しいわよ」
俺とエルザがにっこりと答えた。
「すっかり懐いて……ふふ」
キャロルの母親が彼女を、そして俺を交互に見た。
「本当に……よろしくお願いしますね」
笑顔でもう一回、頼まれた。
宴が終わり、俺は長老とともに夜道を歩いていた。
ちなみにエルザはキャロルと一緒に、彼女の実家に行った。
俺は後からそこへ行くことになっている。
長老の要件が済んだ後で。
「あの、見せたいものって──」
「あなたのスキルに関係するかもしれないものです」
と、長老。
「この里に古来より伝わる文書がありましてな。あるいは、あなたのスキルはそれに記された事象と──」
その言葉の途中で、
ヴンッ……!
うなるような音とともに、俺の前方に黒い何かが出現した。
直径二メートルくらいの、漆黒の円。
その内側には複雑な金色の紋様が描かれていて、魔法陣を思わせる。
「なんだ、これ……?」
ほぼ同時に、夜闇を赤い輝きが照らした。
無数の、火球。
まずい──【ブラックホール】を展開しないと!
スキルを発動するには、一瞬の集中力のタメが必要だ。
間に合うか……?
焦りながら、【ブラックホール】を出そうとするが、
しゅおんっ……!
その必要もなく、すべての火球が黒い魔法陣の内部に吸いこまれた。
「ん、もしかしてこれって……【ブラックホール】か?」
いつもは黒い闇のモヤって感じの外観だけど、それが変化している。
だとしたら、俺の意志とは関係なしに、勝手に【ブラックホール】が出現した、ってことになるな。
一体、どういうことだ……?
と、
「マグナ殿! 向こうからも攻撃の気配が!」
長老が叫んだ。
「『サンダー』!」
呪文が響き、今度は無数の雷撃が俺に向かってくる。
次から次へと、なんなんだ?
俺は平然とそれを見ていた。
【ブラックホール】があるかぎり、どんな攻撃も俺には届かない。
俺の仲間として認識している長老にも、だ。
雷撃はすべて魔法陣──【ブラックホール】内に吸いこまれる。
「──そうか、これが」
俺はようやく理解した。
先日の帝国での戦いで、スキルレベルアップした際に追加されたスキル効果──。
【常時発動防御モード】。
それを発現したのが、この新たなフォルムの【虚空の封環】なんだ、と。





