8 超魔獣兵迎撃戦2
「偉大なる皇帝陛下が生み出せし超魔獣兵第九号『焔帝蜥蜴』──王国の兵どもを蹴散らせ!」
東側の峡谷からも、そんな声が聞こえてきた。
「口上がめちゃくちゃワンパターンだな……」
「うるさい! 帝国の軍紀で、敵に名乗りを上げるときのパターンが決まっているのだ! 仕方あるまい!」
指揮官から反論されてしまった。
「そ、そうなのか……」
「皇帝陛下はそのへん、厳しいからな。いい加減なことをすると査定に響くのだ!」
「査定……?」
「やっと念願のマイホームを手に入れたが、ローンの支払いはまだまだこれから……降格にでもなってはかなわん!」
……敵さんも色々と大変そうだった。
「あっちはワシらが引き受けようかの」
ヴルムさんが腰に差した二本の剣を抜いた。
「ブリジット嬢ちゃんは援護を頼むぞ」
「了解」
ブリジットは長大な弓を構える。
「では、行ってくるとしよう。マグナくん、そっちの敵はよろしくじゃ」
言って、ヴルムさんは天馬騎士とともにもう一体の魔獣の方に飛んでいった。
俺は俺で、まず北側にいる魔獣を倒すとしよう。
レベルアップして500メートルまで射程が上がった【ブラックホール】で。
「マグナくん……」
「シャーリーたちはここで待機して。俺が奴を片付けてくる」
天馬騎士に乗せてもらってもいいんだけど、あと数百メートルだし、このまま歩いていくか。
敵への示威も兼ねて──。
一歩、一歩。
ゆっくりと、威圧するように歩く。
「なんだお前は、たった一人で向かってくるとは……我らヴェルフ帝国を舐めているのか!」
「いや、一人で十分だし」
「ふ……なるほど、我らを挑発して隙を作ろうという作戦か。本命は後ろに控えている天馬騎士団の魔法弾攻撃だな」
指揮官が笑った。
「その手には乗らんぞ」
なんか勝手に深読みされてるなぁ……。
俺は構わずスタスタと歩みを進める。
とりあえず、敵軍の切り札である超魔獣兵をあっさり倒せば、奴らの戦意を大きくくじくことができるだろう。
そのまま敵軍が投降してくるなら、一番楽だからな。
余計な人死にを出さずに済むし。
俺は【ブラックホール】を展開したまま、無造作に歩みを進めていく。
「え、ええい! 撃て! 撃ちまくれ!」
帝国の指揮官が焦ったように叫んだ。
平然と歩き続ける俺に、不気味なものを感じたんだろうか。
ふたたびボルティックベフィモスが雷撃を放ち、さらに帝国軍も雨あられと矢を浴びせてくる。
しゅおんっ……!
そのすべてが、俺の前面にわだかまる円形の黒い闇に吸引されて、消えた。
「ひ、ひいっ……!?」
「な、なんだ、こいつ……!?」
さすがに帝国軍も【ブラックホール】の威力を理解し始めたらしい。
ひるんだのか、矢の勢いが弱まる。
ボルティックベフィモスも戸惑ったように立ち尽くしている。
「お前は、一体……!?」
帝国の指揮官がうめいた。
俺はさらに歩みを進める。
しゅおんっ……!
ちょうど500メートルの射程内に入ったらしく、巨獣は一瞬にして俺の前面の闇に吸いこまれ、消滅した。
「はい……?」
指揮官は呆然とした顔で俺を見つめる。
信じられない、といった顔だった。
「それ以上近づくと、お前たちも同じ運命だ」
俺は静かに告げた。
「投降するか、この闇の中に消えるか。好きなほうを選べ」
「うぐぐぐぐぐ……」
帝国軍は歯噛みしたまま動かない。
シャーリーたちに彼らを武装解除させ、帝国兵たちは投降した。
立ち向かってきた者もいたけど、それはさすがに吸いこむしかない。
これも戦いだからな……。
「こちらの被害はゼロ。最高の戦果よ、マグナくん」
シャーリーが礼を言った。
当然ながら味方兵の負傷者は誰もいなかった。
「じゃあ、後は東側の魔獣を倒しにいくか」
武装解除の間は、帝国の反抗を押さえるために【ブラックホール】でにらみを利かせる必要があったけど、もう大丈夫だろう。
俺は、東側の峡谷に向き直った。
そこではすでに、SSSランク冒険者二人と超魔獣兵との激闘が繰り広げられている──。





