7 超魔獣兵迎撃戦1
「敵襲……?」
「ちょっと、こっちに」
シャーリーに手を引かれ、俺たちはものかげに移動した。
さすがにパーティの客たちの前でおおっぴらにできる話じゃないだろうからな。
「この間の海でイカの怪物を見たでしょう? あれは帝国の魔導生体兵器だったのよ」
と、シャーリー。
「それと同種らしき兵器が、国境に向かって進軍している、と天馬騎士団の斥候部隊から連絡が入ったの」
「それって、すごく強いイカさんなのです?」
「今回のは大きなサイの姿をしているそうだけど、戦闘能力は同レベルと考えていいと思う」
キャロルの問いにシャーリーが答える。
「そんなのが王国内で暴れまわったら、どれだけの被害が出るか……絶対に国境の防衛ラインで食い止めないといけないの」
シャーリーの瞳が燃えている。
「これはあたしも全力で斬る斬る斬る斬る斬る斬るしないとね……斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくってやるんだからっ」
……騎士としての使命感なのか、彼女の性癖なのか、今一つ判別しづらいが。
と、
「出番、というわけじゃの」
「私はいつでも出られる」
老人と少女がやって来た。
ともにSSSランク冒険者の『炎竜殺し』ヴルムさんと『魔弾の射手』ブリジットだ。
二人とも礼装ではなく、戦闘用の衣装だった。
「では、お願いできますか。中庭に天馬騎士団の精鋭を待機させています。あたしも王に報告後、すぐに向かいますので」
言うなり、シャーリーがきびすを返す。
「──あの、俺も行っちゃ駄目かな」
俺はその背に声をかけた。
「マグナくん?」
「俺のスキルも役に立つと思う」
「……君はあくまでも客人よ。王が直々に国防依頼をしたヴルム師やブリジットさんとは違う」
「けど、大変な事態なんだろ? 依頼とかじゃなくて、俺も力になれるなら──力になりたい」
「マグナさん……」
「あなた、戦うつもり?」
キャロルとエルザが驚いたように俺を見る。
「まあ、ちょっと行って【ブラックホール】で吸いこめば終わるし」
たぶん。
──って、ちょっと気楽すぎるかな?
「君が一緒に来てくれるなら、心強いけど」
シャーリーがうつむく。
「でも……本当にいいの?」
「帝国がこの国に攻め入ってくるなら、他人事じゃないし」
俺はにっこりとうなずいた。
「ほう、面白そうじゃな。将来のSSSランクと共闘できるわけか」
ヴルムさんがニヤリと笑った。
幾多の戦場を駆け抜けてきたことを思わせる、凄絶な笑み。
ゾッとするような気迫がこもった、笑顔だ。
「同行者が誰であろうと、私は私の仕事をするだけ」
一方のブリジットは淡々とつぶやき、紫髪のツインテールの先端をぴんと弾いた。
こちらはどこまでもクールだ。
戦時というより、まるで事務仕事でもこなそうとしているかのような雰囲気。
「緊急事態だろ。連れて行ってくれ」
「──分かった。お願いね。王様には、あたしから報告するから」
シャーリーは俺に向かって深々と頭を下げた。
「我が国の危機に力をお貸しくださること、天馬騎士団団長シャーリー・エスト、心より礼を申し上げます」
「そんな堅苦しくならなくてもいいよ。一緒にがんばろう」
本来なら戦争の緊張感とか恐怖感とかがこみ上げてくる局面なんだろう、たぶん。
だけど【ブラックホール】の絶対的な力に対する安心感が、そういうものを打ち消していた。
さっさと片付けてやる──。
俺が考えていたのは、それだけだ。
俺とヴルムさん、ブリジットの三人は騎士団の天馬に同乗させてもらい、国境沿いの防衛線までやって来た。
ちなみに俺はシャーリーの天馬に乗せてもらった。
「ここが防衛ラインか」
周囲は険しい山岳地帯だ。
北と東にそれぞれ峡谷があり、ここはその合流地点だった。
天馬騎士がシャーリーを含めて十数騎、他に騎馬兵や歩兵が全部で千人くらいいるだろうか。
他にヴルムさんとブリジットも最前列に陣取っていた。
と、
「あれか──」
北側の峡谷から巨大なシルエットが進んでくる。
一言でいえば、それは全身が暗褐色の岩で覆われたサイだった。
ただし、全長は三百メートルくらいある。
サイのすぐ後ろには千人くらいの帝国軍がいた。
……まだ距離はあるけど、とりあえず【ブラックホール】を展開しておこう。
敵軍との距離は目測で一キロくらい離れていた。
まだスキルの有効射程外である。
「偉大なる皇帝陛下が生み出せし超魔獣兵第七号『雷魔犀王』──王国の兵どもを蹴散らせ!」
軍の先頭に立つ指揮官らしき男が叫んだ。
くおおおおん。
ボルティックベフィモスとかいう巨獣が吠えると、その全身が黄金色に発光した。
「これは──!?」
瞬く、無数の雷光。
それは峡谷を粉々に吹っ飛ばしながら、俺たちに迫り──、
しゅおんっ……!
俺が展開していた【ブラックホール】に吸いこまれ、消滅する。
破砕された無数の岩がこっちに飛んできてたんだけど、それらもまとめて吸引される。
「おお、今のは……!」
「雷撃が一瞬ですべて消えた……!?」
「何者だ、あの戦士は……!?」
天馬騎士や兵士たちがいっせいにざわめく。
「助かったよ、マグナくん。ありがと」
シャーリーが俺に礼を言った。
「ふむ、それが君のスキルか。大したものじゃ」
「不思議なスキル。初めて見る」
ヴルムさんとブリジットが俺を見つめる。
SSSランク冒険者たちに注目されると、なんか緊張するな。
ともあれ、超魔獣兵といっても、俺のスキルなら無力化できるだろう。
あとは奴らがこっちの射程に入るのを待つだけだ。
さっさと片付けて、キャロルたちのところに戻らなきゃ、な。





