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15 魔王エストラーム1

「君の『運命超越者(フェイトブレイカー)』としての力が、私はどうしても欲しい。その力があれば、神との戦いにおいても大きなアドバンテージを得るだろう」


 熱弁する魔王。


「私は、人間からしか生まれない『運命超越者』を人為的に作り出し、手駒にするつもりだった。皇帝に超魔獣兵や超魔戦刃の製法を伝えたのはそのためだ。人でありながら、人ならざる者を生み出し、通常の人間では開けられない扉を開くことができるかもしれない──実際、過去に現れた『運命超越者』は『人間であって人間でない』といった存在が多かったらしい。すべてがそうではないが……」


 魔王が説明する。


「だが、まったく想定外の出来事が起きた。それがマグナ・クラウド──君だ」

「俺……?」

「突然、君が運命を超越した力を得たのだ」


【ブラックホール】のことか。


「単なる偶然なのか、それともこれ自体が運命なのか……君は、いわば天然の『運命超越者』。勇者すら問題にならない、天地で最強の存在だ」


 ものすごい褒めっぷりに、どんな表情をしていいか分からなくなる。

 正直、ちょっぴり照れ臭かったりする。


「マグナさん、ちょっと赤くなってるのです!」

「まさか、心がグラッときてるんじゃないでしょうね?」


 キャロルとエルザがジト目で俺を見た。


「な、何言ってるんだよ、そんなこと、あるわけ……あるわけ……」


 心がぐらつくことはないけど、魔王ほどの存在に評価されるっていうのは、なんかこう……独特の高揚感がある。


 もちろん、奴の部下になんてならないけどな!


「排除するより味方に取り入れたほうがよい。だからこそ、私は君を誘うのだ。今一度言おう、マグナ。我が魔王軍に来い」

「こういう感じのやり取り、さっきの皇帝ともやったんだけど……」


 俺は半ば呆れ、ため息をついた。


「答えはもう分かってるんだろ。俺は魔王の手先にはならない」

「なのです」

「それでこそマグナよ」


 キャロルとエルザがうなずく。

 ……さっきジト目で見てただろ。


「あたしはマグナさんのことを信じてるのです!」

「あ、あたしだって!」


 二人が身を乗り出して叫ぶ。


「欲のない奴だ」


 魔王が言った。


「君は己がどれほどすさまじい力を持っているか、理解しているのか? それは──世界の命運をも左右するほどの力だぞ」

「そう言われても、俺は一介の冒険者だしな……」


 正直、突然授かった【ブラックホール】は、日々の生活やクエストなどに使うだけで十分だ。

 世界の命運だの、壮大なことを言われても、困る。


「富や名誉などで君を誘うのは難しそうだな」


 魔王が小さく息をついた。


「だが、このまま放っておいて天軍や勇者どもに味方されてはかなわん」

「いや、そっちも断るつもりだし──」

「我が魔界の脅威となる者は、ここで断たせてもらう」


 俺の言葉を聞かず、魔王が杖を掲げる。


 血の色をした宝玉を備えた長大な杖だ。


「──俺の【ブラックホール】の力を知ってて、それでも挑んでくるのか?」

「勝算もなく無謀な戦いはしない」


 と、エストラーム。


「そして何よりも──私は魔王だ。たとえ運命超越者といえど、そう簡単に倒されるものか」


 告げて、杖をこちらに向ける魔王。


「この城ごと──いや、この都市ごと吹き飛ぶがよい! 『灼天の火焔(メガファイア)』!」


 火炎呪文を放つ。


 しゅおんっ……!


「むっ……うおおおおおおっ……!?」


 が、【ブラックホール】は問答無用で火炎呪文ごとエストラームを吸いこんでしまう。


「あ、あれ、あっけなく勝ったぞ……?」


 さすがに魔王が相手だし、向こうだって無策で挑んでは来ないだろう。

 今までとは違って厳しい戦いになるかもしれない。


 実際、自信たっぷりって感じのセリフだったし。


 それがまさか、ここまで簡単に終わるとは思ってなかった。

 さっきのセリフは単なるハッタリだったんだろうか。

 それとも……。


「マグナさん、すごいのです」

「魔王を倒すなんて……四天聖剣でもなしえなかった快挙よ!」


 キャロルとエルザがはしゃぐ。


 ──いや、何かおかしい。


 ばちっ、ばぢぃぃぃぃぃぃっ……!


 俺の前面に展開している黒い魔法陣──【ブラックホール】から火花が散っていた。


「まさか……」


 俺は呆然とつぶやく。


「【ブラックホール】内で異変が起きてる……!?」


 魔王が、何かを仕掛けているのか──?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ええええええブラックホールに吸収される前に脱出できる魔王がいた!? 金角銀角のひょうたんから脱出した孫悟空じゃあるまいし!?
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