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12 止まらない歩み

「──だけど、悪あがきくらいはさせてもらうよ」


 と、ラグディアがニヤリと笑った。


「えっ……?」

「スキル【緊急避難】発動!」


 言うなり、触手の中に封じられたベアトリーチェの姿が消えうせた。


「何……!?」

「彼女を城の最上部まで移送した。振出しに戻ったねぇ」


 笑うラグディア。


「やられっぱなしじゃ癪に障るからね。最後に一つ返させてもらった。皇帝陛下に一つくらい報いておきたいからね」

「くっ……」

「怒った? 殺したいなら、殺せばいいよ。もう僕にできることは何もない」


 諦めたように、地面に大の字になるラグディア。


「先を急ごう、キャロル、エルザ」


 俺は二人を促し、進もうとする。


「……ちょっと待った」


 ゆらり、とラグディアが立ち上がった。

 剣を手に、俺たちの前に立ちはだかる。


「よせ。今さら剣を手にしたところで、お前に勝ち目はないぞ」

「だろうね」


 ラグディアは止まらない。


 剣を大きく振りかぶり、俺に向かって斬りかかり──。


 しゅおんっ……!


 当然のごとく、その剣は【ブラックホール】内に吸いこまれた。


「はは、打つ手なしだね」


 ラグディアは肩をすくめて苦笑した。


「できるだけ悪あがきしようかと思ったんだけど、君の力はそんな次元じゃない。同じ『運命超越者』でもモノが違う。因果をもゆがめる力を身に着けたつもりだったけれど……君はその力ごと封じてしまった……さすがに、お手上げだよ」

「運命超越者、か」

「いや、あるいは『本物』は君だけなのかもしれないね。僕はどこまでいっても未完成品だった……きっと『運命超越者』としても、兵器としても」


 つぶやくラグディア。


「気が済んだなら、俺たちは行くよ」


 ベアトリーチェは城の最上部へと送られた。

 任務は振りだしに戻った格好だ。


 俺は元の通り、陽動メインで動くのがいいだろう。

 別働隊であるリオネスたちが、その間にベアトリーチェを奪還してくれることを願って。


「……僕を殺さないんだ?」


 ラグディアが俺を見る。


「俺は敵を殺したいんじゃない。戦いを止められたら、それでいい」


 言って、俺は背を向ける。


「先を急ごう、キャロル、エルザ」


 二人に声をかける。


「リオネスさんたちの作戦がうまく行くように、できるだけ帝国軍をひきつけなければ、なのです」

「今のマグナなら大丈夫よ」


 二人の言葉に俺はうなずき、


「いや、引きつけるだけじゃない」


 ふと思ったんだ。

 この力を全開にして使えば──。

 帝国の世界侵攻すら食い止められるんじゃないか、って。


 俺一人の力で戦争を終わらせる。

 それは夢物語のようだけれど。


 でも、決して不可能じゃない気がしてきた。


 今の俺のスキルなら──。




 俺はキャロル、エルザとともに帝国内を進んだ。


 現れた敵軍はすべて【ブラックホール】で装備だけを吸いこみ、無力化した。

 相手の攻撃は当然、【ブラックホール】で全部吸いこみ、俺たちには一発も届かない。


 もはや俺の行く手を阻むことは、帝国のどんな奴にもできない。

 ひたすらまっすぐに、皇帝のいる居城へと向かった。


 そして数時間後、俺は帝城のすぐそばまで来た。


「何か、嫌な気配がするのです」


 キャロルがわずかに眉をひそめた。


「嫌な気配?」

「あっちから……何かが匂ってくるのです」


 キャロルが指さしたのは、城の右側に隣接された建物だ。


 俺たちはそこに向かった。

 見張りの兵士は当然【ブラックホール】で無力化である。

 で、内部に入る。


「これは──」


 俺は息を呑んだ。


 身長数十メートルの巨大なモンスターが百体単位で群れている。

 周囲に並ぶ魔導機器といい、まさかここって……。


「『超魔獣兵(イクシード)』の工房……?」


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