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10 闇の剣士と鳳炎帝4

ひさびさに日間ランキング(ハイファンタジー)にランクインしてました! ありがとうございます!

 その一撃は──。


 技術ではなく。

 膂力ではなく。


 ただ渾身の、魂を込めた一撃だった。




「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」




 雄たけびとともに、ルネは黒い閃光と化した。


「……!?」


 余裕を絶やさなかったポルカが、初めて驚きの表情を浮かべる。


「なんだ、反応が……遅れる……!?」


 ポルカの動きが、今までよりも少しだけ鈍い。

 ほんの少しだけ、鈍い。


「まさか、僕が気圧されている──?」


 ルネが大剣を突き出す。

 大気を切り裂き、音速をはるかに超えて、その切っ先が最強魔族へと向かう。


「──!」


 ポルカが大きく跳び下がった。


 ぽたり……。


 赤い雫が一滴、地面に落ちた。

 ポルカの頬がわずかに裂けていた。


「僕に傷を負わせるとは」


 しゅうう……と白煙を上げ、その傷が見る間に再生されていく。


 一撃。


 そう、たったの一撃だが──。


 確かにルネの刃は、最強魔族に届いていたのだ。


「といっても、かすり傷か。しかも、もう治ったし……な」


 ルネは息を吐き出し、大剣を構えなおした。


 先ほどの一撃は掛け値なしの全身全霊だった。

 それでもなお、ポルカにはかすかな傷を与えたのみ。

 一体どうすれば、この化け物にダメージらしいダメージを与えることができるのか。


「やっぱり強いな、お前」


 言いながら、ルネは笑っていた。


 腹の底から笑いが込み上げ、止まらない。


「あれ? 今のが通用しなかったのに笑えるんだ?」


 ポルカは意外そうな顔をした。


「力の差を思い知ったのかと思ったら……もしかして、まだ理解できてない? 君の全身全霊でさえ、僕にはかすり傷程度しか付けられない」

「そうだな。お前は強い。認めてやるよ。今まで出会った中で最強だと」


 ルネが鼻を鳴らした。


「俺は、お前の足元にも及ばない。だから──」


 地を蹴り、駆け出す。

 円を描くように。

 ポルカの周囲を超スピードで回りだす。


「今よりももっと──今よりもはるかに、自分を超えていくことにした。限界を超えて、その先の──先の先の先の先の先の先の先の……」

「まだ速くなっている……!? さっきの攻撃でも限界じゃなかったのか!?」

「限界なんてない! 俺はどこまでも強くなる!」


 ルネがふたたびポルカに斬撃を浴びせる。


 羽毛が数枚、舞った。

 避けきれずに、今の一撃がポルカの翼をかすめたのだ。


「まだまだ速く──」


 さらに三撃、四撃。

 いずれの斬撃もポルカに直撃はしないものの、わずかにかすめる。


「……くっ」


 ポルカは大きく跳び下がった。


「──おしまい」


 ふいに、構えを解く鳳炎帝。


「何……!?」

「君、面白いね。どんどん強くなる……だけど、今はまだ無理だよ。このままやれば、君が成長しきる前に、僕が致命傷を与える」

「……ふん」


 そう、いかにルネが成長を続けていこうと、現時点での差が大きすぎる。


「だけど……時間をかければ、いずれは僕に匹敵するくらい強くなるね。なら、そのときにもう一度勝負しよう」


 ポルカがあっけらかんと笑った。


「は?」


 ルネの方はポカンとなる。


「君が本当の最強になる前に殺しちゃったら……最高のバトルを楽しめないでしょ。そのときまで──決着はお預けにするよ」


 微笑み、背を向けるポルカ。


「僕にこんなふうに思わせたのは……それも、二度も思わせたのは君だけだ。もっと強くなりなよ、ルネ」

「どこへ行く……?」

「帰る」


 ポルカの背から翼が開いた。


「しばらく魔界で寝てるよ。退屈だしね。いつか君が最強になったら挑みに来てよ」

「……ふざけた奴だ」


 おまけに、気まぐれ極まりない。


「首洗って待ってろ、ポルカ」

「うん、楽しみに待ってるよ。そのときは──最高の殺し合いをしよう」


 振り返った少年の顔は──。

 至福の喜びに、満ちていた。


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