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6 今夜はパーティ

 その日の夜、俺は王宮で行われるパーティに招待された。


 俺やSSSランク冒険者二人の歓迎パーティ、という感じらしい。


 国のパーティで主賓の一人なんて、なんだか嘘みたいな話だ。

 俺は着慣れない礼服姿で、緊張気味だった。


 と、前方から白いドレス姿の女の子が近づいてくる。


 優美なティアラに、桃色の長い髪と金色の瞳。

 柔和な笑みは高貴な雰囲気をかもし出し、まさしく絶世の美少女──。


「……って、キャロルか!?」


 いつもと違う格好だから、印象が違って分からなかった。

 狐耳があるんだから、すぐ分かりそうなものだが、まるでお姫様みたいに見えて、そこまで意識がいかなかったのだ。


「えへへ、おめかししたのです」


 キャロルは照れくさそうに微笑んだ。

 ドレスのスカートは尻尾が出るようにあつらえてもらったらしく、ぴょこん、と可愛らしく狐の尾が跳ねている。


 ドレスだと、いつもより大人っぽく見えてドキッとした。


「そ、そんなに見られると恥ずかしいのです」


 キャロルが頬を赤く染めた。

 ますます可愛い。


「あたし、変でしょうか? ドレスなんて初めて着たのです」

「いや、似合ってるぞ」

「本当ですか! 嬉しいのです」


 ぴょん、と飛び跳ねるキャロル。


「ああ、もふもふし甲斐がありそうだ」

「ここでもふもふは恥ずかしいのです」

「じゃあ、後で頼む」

「二人のときにでも……ふふ」


 ん……傍で聞くと、ちょっと怪しい会話に聞こえるかもしれないな。

 俺はあくまでも健全にキャロルをもふもふするだけだからな!


「二人して怪しいわね」


 エルザが歩いてきた。


 キャロル同様にドレス姿だ。

 こっちはいつもと違う格好でも、雰囲気はあまり変わらない。

 さすがに貴族令嬢だけあって、よく似合っていた。


 胸元が大胆に開いたデザインのドレスに、思わず視線を引きつけられる。


「……どこ見てるのかしら?」

「っ……!」


 笑顔のままジロリとされ、俺は慌てて視線を逸らした。


「い、いや、見てませんよ! 見てませんからね!」


 焦って敬語になってしまった。


「まったく、もう」


 エルザの表情が微苦笑に変わる。


「むー……」


 なぜかキャロルがちょっと拗ねていた。


「せっかくのパーティだし、なんか食べるか」

「そうですね。美味しそうなものがいっぱい並んでるのです」


 今日は立食パーティ形式だ。


「いいわね」


 エルザも目を輝かせる。


「エルザってこういう料理は慣れてるんじゃないか?」


 貴族令嬢なんだし、パーティには何度も出ていそうなイメージだ。


「実家にいたころはね」


 縦ロールの金髪を指先で、くるくるっ、といじりながら、エルザが答えた。


「でも、家を出て何年も経ってるから、こういうのはずっとご無沙汰なの」

「じゃあ、みんなで美味しく味わうのです」

「だな」

「そうね」


 俺たちは豪華な料理をたっぷり味わった。

 と、


「三人とも、楽しんでる?」


 シャーリーがやって来た。

 ドレス姿ではなくいつもの騎士の格好だ。


「キャロルさんもエルザさんもよく似合ってるね。綺麗よ」

「ありがとうございます、なのです」

「素敵なドレスを用意してくれて、礼を言うわ」


 キャロルがぺこりと頭を下げ、エルザは優雅に一礼した。


「あたしも警護任務がなかったら、一緒にお話したり楽しみたかったな」


 残念そうなシャーリー。


「そっか、シャーリーは仕事か」

「ええ。特に今は対外情勢が──」

「団長」


 言いかけたところで、部下らしき騎士がシャーリーの元に駆け寄ってきた。

 ひそひそ、と何事かを耳打ちする。


「部下たちに出撃体勢を整えさせて。天馬たちの準備もね。あたしも王に報告次第、すぐに行くから」

「承知いたしました」


 部下の騎士は一礼して去っていく。


 出撃体勢?

 なんだか物騒な言葉だったけど……。


「敵襲よ」


 シャーリーが俺たちに耳打ちした。


「えっ」

「ヴェルフ帝国が──攻めてきたの」




 ヴェルフ帝国。


 最古にして最強の魔王『始まりの魔王(ヴェルファー)』を信奉する、邪教の国だ。


 レムフィールや魔法王国ラエルギアなど大国との小競り合いが続いているのは知っていたけど、いきなり攻め入ってくるなんて。


 王都に入ったときに、SSSランク冒険者のヴルムさんやブリジットが話していた通りになったわけか。


 ──近々、ヴェルフ帝国との間で大きな戦いが起きる。

 ──自分たちはそのために呼ばれた。


 でも、まさかそれが今夜とは。


「マグナさん……」


 キャロルが不安げに俺の服の袖をつかむ。


「大丈夫だ」


 俺は彼女の頭を軽く撫でた。


 いざとなれば、俺のスキルでみんなを守ってみせる。

 絶対に──。

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