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9 闇の剣士と鳳炎帝3

 オレンジ色に輝く翼と光輪。

 全身から立ち上るまばゆいオーラは深紅。


 ポルカは神々しいまでの輝きを放ち、先ほどまでとは雰囲気が一変していた。

 魔族というより、まるで神か天使と相対しているようだ。


「やれやれだね。この姿を出すのは、久しぶりだよ」


 ポルカが笑う。


「八歳のとき以来だから──二年ぶりかな。生まれてから二度目だ」


 きゅおおおおんっ!


 ポルカの口から甲高い鳴き声がもれた。

 同時に周囲が激しく揺れる。


「な、なんだ──」


 地震の類ではない。

 かといって、ポルカがなんらかの攻撃を仕掛けたわけでもない。


「まさか、鳴き声だけで空間にひずみが生じているのか……!?」

「そら、直撃したら死んじゃうよ~」


 笑いながら、ポルカが空間振動波を放つ。

 予備動作など何もない、ただ『鳴く』というシンプル極まりない行動によって生じる、強力無比な攻撃。


「避けないと避けないと」


 冗談じゃない──。

 ルネは顔をこわばらせながら、必死で走った。

 とにかく、ポルカと正面から向き合わないことだ。

 向き合えば、振動波にやられる。


 その余波の地震だけでも厄介だが、ルネとてスピードには自信があった。

 将来の敏捷さに加え、今までの強敵との戦いや、ラグディアとの訓練で、通常のダークブレイダーではあり得ないレベルの速力を会得している。


「がっ……!?」


 それでも、とても避けきれない。

 振動波が背中をかすったらしく、重い衝撃が甲冑を砕き、背骨を突き抜けた。


 ルネは血を吐きながらも、さらに加速する。


 立ち止まれば、殺される。


「あははは、今ので止まらないんだ? がんばるねぇ」

「ちっ、楽しんでるのかよ!」


 ルネは舌打ちした。


「挑んできたのは君の方でしょ? 僕はせいぜい楽しませてもらうよ」


 ポルカはにっこりと笑った。


 そこには敵意も殺意もない。

 あるのは──まるでスポーツでもするかのような、爽やかな闘争心のみ。


「……すぐにその余裕を消し去ってやる」


 ルネは奥歯を噛み締めた。


 目指す場所は──最強の座。

 ポルカはそのためのもっとも大きな関門の一つだ。


「今ここでお前を超え、俺はさらに強くなる!」


 ルネは両足に力を込める。

 駆ける。

 今よりも速く。

 全速力で、駆ける。


「……? さっきから動きがどんどん速く──」

「お前の攻撃にも目が慣れてきたからな。避けやすくなってきた。けど、まだ足りない……もっとだ! もっと、速く──」


 ルネは全身に力を込める。


 両足がちぎれそうなくらいの負荷をかけ、急加速。

 急停止と急旋回。


 そしてふたたび超加速。


 ポルカの空間振動攻撃を避けながら、じりじりと彼に近づいていく。


「──へえ」


 ポルカの表情から笑みが消えた。

 つぶらな瞳が輝く。


「君、すごいね。それとも馬鹿なの? これだけの力の差があっても諦めないなんて」

「俺はただ誰にも負けたくないだけだ」


 その一心で、剣を振り続けてきた。

 その一心で、強敵に挑み続けてきた。


 そしてその一心で──自分の限界を超え続けてきた。


「だからお前に勝つ──食らえ、ポルカ!」


 そしてルネは、最後の一撃を放つ。


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