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8 闇の剣士と鳳炎帝2

 半ば成り行きから魔界最強のポルカに挑む流れになってしまった。


「まあ、俺としては願ったりかなったりか」


 ルネは口元に笑みを浮かべる。


 少し前にマグナに敗れ、『もっと強くなりたい』という気持ちをあらためて持ったばかりである。

 最強レベルの猛者であるポルカとの再戦で、そのヒントをつかめるかもしれない。


 恐ろしい、と思う。

 だが、不思議と逃げたい気持ちが湧いてこない。


 ポルカの放つ重圧にも段々と慣れてきた。


 体が軽くなっていくのが分かる。

 闘志が強くなっていくのが分かる。


 挑んでみたい。

 自分の限界がどの程度か──自分はどのレベルの強さまで行けるのか、試してみたい。


「さあ、一手ご指南願おうか、魔界最強様よ! あのころの俺とは違うぜ!」


 ルネは気持ちを浮き立たせながら、ポルカに向かって突進する。

 左右にフェイントを交えつつ、力強い踏みこみから稲妻のごとき突きを見舞う。


「封神斬術──雷翼刃(らいよくじん)!」

「魔王ヴリゼーラの生み出した剣術だったね、封神斬術って」


 ポルカが微笑んだ。


 防御も回避もするそぶりがない。

 棒立ちだ。


「舐めるな!」


 少年魔族の胸元にルネが大剣を打ちこむ──。


「舐めてなんかないよ」


 ポルカがにっこりと笑った。


「ただ確信してるだけさ。この世のどんな存在であろうと、僕には到底かなわない」


 その指先が、ルネの渾身の突きを受け止めている。


 ここに駆けつけたとき、目にした光景と同じだ。

 あのときも、リオネスの奥義をポルカは指一本で止めていた──。


「くっ、こいつ……!?」


 ルネは大剣に渾身の力を込めながら、うめいた。


 こちらは両腕のパワーを全開にしているというのに、ポルカの指先は微動だににしない。

 まるでビクともしない──。


「分かったかい、僕と君の力の差が」

「……ああ、よく分かった」


 ルネは大きくバックステップする。


「お前に勝てれば、俺は最強の魔族に大きく近づけるってことがな!」

「あらら……自信過剰なんだか、無謀に過ぎるんだか」

「俺のすべてをぶつけてやる! いくぜ、魔界最強!」


 ルネが吠えた。


 先ほどの数倍の速度でフェイントを繰り出し、迫る。


 パワーでは比べものにならないほどの差があるようだ。

 ならば、馬鹿正直に力勝負を挑む理由がない。


 スピードで、かき回す。


 心の高ぶりが──闘志の高まりが、ルネの体にさらなる力を湧き立たせていた。


「へえ、ダークブレイダーの動きじゃないね。上級魔族並──いや、もしかしたら魔軍長クラスに迫るんじゃない?」

「悠長に分析とは余裕じゃねーか!」


 吠えて、ルネが加速する。


 幾多の死闘を経て、会得した彼の得意技の一つ『捨て身の突進』。

 防御を捨て、攻撃のみに全神経を集中することで、極限の突進速度を体現する──。


「速いね!」


 ポルカは驚いたように叫んだ。

 その顔に喜悦の笑みが浮かぶ。


「面白くなってきたよ!」

「そうかい。じゃあ、すぐに『面白い』なんて言ってられなくしてやるよ!」


 ルネは──さらに加速した。


「二段階の加速……!」

「ラグディアとの特訓でたどり着いた領域──俺は強敵と戦い続けてきた。その中で、そいつらの技を吸収し続けてきたんだ」


 もはや光速に匹敵するほどの超速で、ルネがポルカに肉薄した。


「お前は──最強の座にあぐらをかいて、自分の力を磨いてこなかったんだろ? たたずまいで分かる。常に余裕で格下を叩き潰す。それがお前の戦いのすべて。だからこそ!」


 ルネが踏みこんだ。


「三段階……!?」


 これが、最後の加速だ。


「だからこそお前は──自分に肉薄するほど成長していく相手には、対応できない!」


 突く。


 ただ全身全霊を込めて。




 手ごたえは、なかった。




「何……!?」


 数メートル前方に、ポルカがいる。


 今の一瞬で移動し、ルネの突きを避けたのだ。

 だが、そのシルエットが微妙に変化していた。


「なんだ、お前の姿は──」


 ルネは呆然とつぶやいた。


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