7 闇の剣士と鳳炎帝1
ルネは、異空間でのマグナとの『勝負』の後、この世界に戻ってきた。
そして、戻った瞬間に強大な魔力を感知したのだ。
まるで世界が震えるほどの、絶大なプレッシャー。
一体、何者だ──。
考えるより早く、ルネの足はその者のいる場所へと向かっていた。
すなわち、ヴェルフ帝城へ。
駆けつけると、勇者や冒険者と魔族が戦っていた。
勇者の顔には見覚えがあった。
以前に戦ったことがある。
人類最強戦力と呼ばれる最高位の勇者──『四天聖剣』のリオネスだ。
他の二人の冒険者も、いずれも凄腕のようだった。
気配だけで分かる。
おそらくは最高峰の冒険者──『SSSランク』だろう。
そんな三人の攻撃を、魔族の少年は平然といなしていた。
さらに、リオネスが放った奥義らしき攻撃ですら、指一本で受け止めてしまった。
鳳炎帝ポルカ。
以前に一度、彼と手合わせをしたことがある。
そのときはルネが彼の隙をついた一撃を食らわせ、ポルカは負けを認めた。
とはいえ──純粋な戦闘能力では圧倒的な開きがあった。
そう、戦闘能力の次元がまるで違う──。
ルネは戦慄した。
同時に、ゾクゾクとした。
こんなとんでもない奴ともう一度戦ってみたい。
戦って、勝ちたい。
そうすれば、俺はとんでもない強さまで駆け上がれるかもしれない。
ルネは大剣を振り下ろし、衝撃波を放ち、彼らの間に割って入った。
そして、今こうしてポルカと対峙している──。
「楽しくなってきたけど……最強の魔族っていう言葉は聞き捨てならないかな」
少年が眉を寄せた。
(あいかわらず、見た目は全然強そうじゃない……けれど)
ポルカの力が、外見とかけ離れていることは以前の戦いで思い知らされていた。
向かい合っているだけで、押しつぶされそうなプレッシャーを感じる。
今までに戦ってきた幾多の強敵──SSSランク冒険者のヴルムや四天聖剣、あるいはラグディアでさえ、ポルカに比べれば子どもに見えてしまう。
それほどまでに『鳳炎帝』が放つ威圧感は桁が違っていた。
「ん? もしかして威勢のわりにビビッてる?」
ポルカが微笑む。
その声が、体の内部がかき回されるように反響した。
「ぐっ……ぅぅ……っ」
こみ上げる嘔吐感を、ルネはなんとかこらえた。
(会話するだけで体力がガリガリと削られそうだ……)
一説では魔王よりも強いという噂もうなずける。
「好戦的な目をしてるね~。あ、もしかして僕を倒して名を上げよう、とか考えてる?」
と、ポルカ。
「魔界でもうんざりするくらいその手の輩はいたよ。全部返り討ちにして──殺してあげたけど」
無邪気な笑みのまま、強烈な殺意を飛ばしてきた。
「──ちっ」
気圧されそうになる自分を、ルネは必死で奮い立たせた。
「ねえ、今度は君が戦ってくれる? この人たち、弱すぎて戦うのも飽きてきちゃってね」
ポルカが示す先には、リオネスたちがいた。
初めて見る者もいるが、何人かは見知った顔だ。
「マグナの仲間か……?」
「ん、君はマグナ・クラウドの知り合い?」
ルネのつぶやきにポルカが反応した。
「いずれ倒すべき相手だ。俺が最強になるために、な」
「ふーん……」
ポルカはうなり、リオネスたちに視線を向けた。
「ねえ、この人たちを殺せば、マグナは怒るかな? 僕に本気で向かってくるかな?」
その眼光に鋭い殺意が宿る。
「そいつは下種な考えだな。お前みたいに強いやつが持っていい考えじゃねーよ」
「気に入らない?」
「ああ、かなりな」
ルネはリオネスたちをかばうように回りこんだ。
「もしかして、僕から彼らを守るつもり、とか?」
「お前のやり方は気に食わない。少なくとも、俺の目の前ではさせない──それだけだ」
「魔族が、私たちを……!?」
驚いた顔でリオネスたちがこちらを見ていた。
「──ふん」
ルネは視線を逸らす。
かつて圧倒的な力の差を見せつけられた、最強勇者──四天聖剣のリオネス。
その彼を、今は自分が守ろうとしている。
未だ、純粋な実力ではリオネスの方がはるかに上かもしれないが。
今、この場でポルカと戦う力と意思を備えているのは、ルネだけだ。
戦える可能性があるのは、あのころより成長したルネだけだ。
「魔族が人間を助けるつもりかい」
「違う。お前の下種な考えを阻止するつもりだ」
ルネは言い放った。
「力ずくでもな」
「へえ、そいつは面白いね!」
ポルカの表情がぱっと輝く。
「ちょっと楽しくなってきたよ。じゃあ、言葉通り……僕を阻止してみせて」
「そうさせてもらう」
ルネが大剣を構える。
「お前を叩きのめしてな!」
「いいよいいよ。こういう刺激が欲しくて人間界に来たんだ──」
【読んでくださった方へのお願い】
ページ下部にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところにある☆☆☆☆☆をポチっと押すことで★★★★★になり評価されます。
「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひポチポチっとしていただけましたら励みになります!





