6 最強の魔族2
【20.6.9追記】
ルネとポルカのやり取りを修正しました。二人が初対面だと思いっきり勘違いしてました……(感想欄で指摘してくださった方、ありがとうございます)。以降の話でも二人のやり取りをちょこちょこ修正しています(ストーリーの大筋は変更ありません)
リオネスは全身を小刻みに震わせたまま、立ち尽くしていた。
思考が、うまく働かない。
恐ろしい……。
今や、自身の気持ちをはっきりと知覚できる。
華奢な美少年にしか見えないポルカが、どんな凶悪なモンスターや魔族よりも禍々しく見えた。
「くっ……」
リオネスは震えながら、後ずさり続け──、
「各自、最大能力をもってこの魔族を撃滅しろ!」
叫んだのは、クルーガーだった。
最強の魔族を相手にしても、ひるむことはない。
いや、ひるみながらも、なお闘志を萎えさせない。
見事な、意思の強さだ。
自分でさえ、本能的に『逃げ』を選択しそうになったのに。
リオネスは素直に彼を称賛する。
初めて会ったころは見下していた『冒険者』だが、彼らには彼らの強さがあるのだと、今ではそう感じていた。
そんな彼らとともに戦えることが頼もしく、誇らしい。
「クルーガーの言うとおりだ。奴は私が仕留める。二人とも、援護を頼む!」
リオネスが奇蹟兵装ガブリエルを手に告げる。
「君たちの力を信じている。だから君たちも、私を信じてほしい」
「へっ、殊勝なセリフだねぇ」
「りょーかいっ」
青年魔法使いがニヤリと笑い、武闘家少女が元気よく叫んだ。
「三人がかり? いいよ、遊んであげる」
ポルカは余裕の表情だ。
クルーガーの魔法が、レイアの格闘が、牽制代わりに連続で撃ちこまれるものの、少年魔族はまったく動じない。
だが──リオネスへの注意は、明らかに逸れていた。
油断か、あるいは。
どちらでもいい。
今、この好機に渾身の一撃を叩きこんでやる──。
リオネスは長剣と化したガブリエルを掲げ、奥義を放った。
「ザイラス流剣術奥義、雷閃龍牙刃!」
何百何千という剣閃を超速で放つ、ザイラス流剣術の奥義である。
斬撃の速さや体のこなし、相手の動きを見切る速度……あらゆる『速さ』を束ねた末にたどり着ける高速剣技の極み。
それが、雷閃龍牙刃。
「へえ、今までで一番マシな攻撃だね」
ポルカは──それを指一本で受け止めていた。
あれだけの数の斬撃をあっさりと見切り、あれだけの威力の斬撃をあっさりと止めてみせたのだ。
「なっ……!」
リオネスは剣を止められたまま、呆然と立ち尽くす。
今の攻撃だけで勝てるほど甘くはない、と覚悟はしていた。
だが、まるで通用しないとは。
力の差が、ここまで圧倒的だとは──。
「ほんのちょっぴりだけど、僕の体に傷をつけたことは褒めてあげる」
指先に、わずかに血がにじんでいた。
だが、それだけだ。
たったそれだけのダメージだ。
「信じられん……この世に、こんな奴が存在するのか……!」
「リオネス、俺たちも援護だけじゃなく戦う。あんた一人に戦わせねーよ!」
「ボクだって!」
背後でクルーガーとレイアが叫んだ。
「駄目だ、来るな!」
リオネスが叫んだ。
「──いや、来ないでくれ。こいつには勝てない。たとえ全員でかかったところで」
悟っていた。
今のわずかな攻防だけで、互いの力量差を見切るには十分だった。
絶望的なまでの戦闘力の開き──。
そこに、勝利の可能性など微塵もない。
ならば、せめて自分一人で食い止めよう。
他の者たちだけでも生きられるように。
「仲間だけは、守る……守らせてくれ」
「健気だね~」
ポルカが笑う。
「そういうのってさ、ちょっとうざいっていうか……ひねりつぶしたくなるんだよね」
口の端が笑みの形に吊り上った。
無邪気な──それゆえに残忍な笑みだった。
子どもが、面白半分にアリの巣をつぶしてしまうように。
この少年は同じような気分でリオネスたちを殺そうとしている──?
斬っ……!
そのとき、横合いからすさまじい衝撃波が走り抜け、ポルカとリオネスたちの間の地面を切り裂いた。
「強い気配を感じたから来てみたら……お前か、ポルカ。しばらくぶりだな」
黒い鎧の剣士が、前方から歩いてくる。
「弱者をいたぶろうって態度は好きじゃねーな」
「ん? 君は前にも会ったね」
眉を寄せるポルカ。
「俺はルネ・ラーシェル。いずれ最強の魔族と呼ばれる男だ」
「そうそう、思い出したよ。一度戦ったっけ。僕、君に負けたよねぇ。あはは」
無邪気に笑っている。
「……あんなのは、別に勝ちじゃねーだろ」
「あのころより、強くなったみたいだね。ちょっと楽しくなってきた」
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