4 スキル頂上決戦
これで自分は無敵の能力を手に入れたのだ──。
あまり感情豊かとはいえないラグディアだが、このときばかりは高揚感を覚えていた。
「余がお前に期待した力──そのすべてを、お前は発現することができた。いや、期待以上だ。よくやったぞ、ラグディア」
「ありがとうございます、陛下。僕、がんばりましたから」
ラグディアがあっけらかんと笑う。
特訓に付き合ってくれたルネにも、あとで会えたら礼を言うべきだろうか。
もっとも【虚空の領域】では敵対してしまったが──。
「今やお前の力は地上のどんな人間よりも上だ。そう、四天聖剣やSSSランク冒険者と比べてさえ、圧倒的に。そしてあのマグナ・クラウドをも上回る力を──」
「前に異空間で戦ったときは正直、僕のほうが弱い感じでしたねー」
ラグディアが薄笑いを浮かべる。
「今は、違う」
皇帝が重々しく告げる。
「お前の力はついに完成した。100階層にまで到達することによって、な。そしてベアトリーチェの能力を併用することで、お前は『運命超越者』たるマグナを超えたのだ」
「ふぇいと……? なんだか仰々しい名前ですねぇ」
ますます笑うラグディア。
「……むう、マグナ・クラウドが帝都に現れたという情報が入った。帝国兵を向かわせたが、到底太刀打ちできまい」
と、皇帝がうなった。
「じゃあ、僕が行ってくればいいですね」
「頼めるか」
「もちろんです」
ラグディアは気楽に返事をして戦場に赴いた。
そして今、こうしてマグナ・クラウドと渡り合っている──。
ラグディアが前面に展開した黒い円形の淀み──【疑似ブラックホール】ともいうべきそれは、強烈な吸引力を放っていた。
触手の中に捕らえた勇者ベアトリーチェの奇蹟兵装を使い、『空間操作』による『吸引』を行う。
その『吸引』がマグナに作用すると、ラグディアの『緊急避難』が発動して彼をさらに吸い寄せる。
二段重ねの『吸引』は、マグナの【ブラックホール】が放つ『吸引』を同じ力で吸い返すほどに強力だ。
結果、二つのブラックホールの間で吸いあう力が拮抗状態になっていた。
お互いに相手を吸いこめず、膠着している。
「なるほど、出力は完全に互角か」
ラグディアは二つの【ブラックホール】を観察し、つぶやいた。
「お前に、どうしてこんな能力が──」
数メートルの距離を置いて向かい合うマグナは驚きの表情だ。
「驚いたでしょ? この間は返り討ちにあっちゃったけど、今度は負けないよ」
ラグディアが悪戯っぽく笑う。
「……『詳細設定モード』を立ち上げ」
小さくつぶやいた。
射程距離:10メートル。
緊急避難対象:ラグディア→マグナ・クラウドに変更中
緊急避難レベル:A
「んー……レベルSまでいってみようか」
ラグディアがニヤリと笑った。
最大出力をさらに超える『レベルS』。
このスキルの本来の用途は『ラグディアをあらゆる攻撃から守り、その場から安全圏まで瞬間移動させること』だ。
緊急避難レベルが上がるほどに、瞬間移動の反応速度が増す。
ただし、あまりにも速度が上がると、ラグディアといえども体が耐えられない。
そのため、普段はレベルAにとどめているのだが──。
自分ではなく他者を瞬間移動させるなら、体の負担など考慮する必要はない。
最大出力でもって、マグナの吸引能力を超える──。
「そして、勝つ」
「うう……」
触手に中に閉じこめているベアトリーチェがかすかにうめいた。
彼女には皇帝が魔法をかけ、奇蹟兵装をマグナに向かって使い続けるよう催眠状態にしてあるのだ。
「もう少しだけがんばってね。今、僕が──マグナ・クラウドを倒す」
吸引、最大出力。
ラグディアはスキルの緊急避難レベルをAからSへと引き上げた。
「これで──終わりだね」
拮抗状態は崩れ、マグナはラグディアの【疑似ブラックホール】に吸いこまれるだろう。
しゅおんっ!
次の瞬間、ラグディアの前方で黒い淀み──【疑似ブラックホール】が吹き散らされた。
「えっ……!?」
ラグディアは驚愕した。
マグナを吸いこむどころか、こちらのスキルそのものが吸いこまれる──!?





