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3 ふたたびの対峙

 帝国兵は完全に無力化できたようだ。

 死者の数もゼロ。


【ブラックホール】で吹っ飛ばした際に地面にたたきつけられて打撲した者はいるみたいだけど、少なくとも死んだ者はいない。


「さすがマグナさんなのです」

「あいかわらず出る幕がないわね、私たち……」


 背後でつぶやくキャロルとエルザ。


「いや、二人が一緒にいてくれるのは、それだけで心強いよ」


 俺はにっこり微笑んだ。


 この調子で誰も殺さずに無力化しよう。

 リオネスやクルーガーたちがベアトリーチェ奪還を果たすまで、敵の目を俺に引き付けておかなければ。


 と──、


「おっと、いつまでも調子に乗らないでよね」


 大通りの向こう側から誰かが歩いてくる。


 飄々とした雰囲気の中年兵士。

 どこにでもいそうな帝国の一兵卒──という雰囲気だが、その正体は【触手】スキルを操る超魔戦刃(イクシードソード)だ。


「ラグディア……!」

「また会ったね、マグナくん」


 ラグディアがにっこり笑いながら歩みを進める。


「ん……?」


 奴が腰に剣を指していないことに気づいた。

 俺のスキルの前には帯剣しても無意味、と知ってのことだろうか。


 まあ、こいつの主武器は【触手】スキルだ。

 剣なんてあってもなくても同じなのかもしれないな。


「今度はお前が出てきたのか」

「皇帝陛下のご命令だ。君を拘束──それがかなわないなら殺せ、ってね」


 ラグディアの背から三本の触手が現れる。


 それで攻撃してきたところで、『反転』によって吹っ飛ばされるだけだ。

 俺にとって脅威にはならない。


 ただ、こいつをどうやって無力化まで持っていくか。

 問題はそこだった。


 兵士たちと違って、こいつは武器なしでも自前の触手だけで十分戦える。


 体も、普通の人間よりずっと頑強なはず。

 ダメージで動けなくするのも、捕縛するのも、簡単ではないだろう。


「戦場で考えごとかい? じゃあ、僕から行くよ──」


 ラグディアが触手を繰り出した。


 どんっ!


 その瞬間、『反転』が発動してラグディアは吹っ飛ばされる。


「わわっ……!?」


 中年兵士は空中で回転して着地した。

 さすがに体術は並外れている。


「あー、びっくりした。なるほど、そういう仕組みなんだね」

「俺のスキルの前では、お前のスキルは無力化される。おとなしく投降してくれ」

「投降? 嫌だね」


 ラグディアの背から、ふたたび触手が起き上がる。


「僕だって強くなったんだ。これくらいで無力化されたりはしないよ」


 ヴ……ン!


 うなるような音とともに、彼の前方の空間がゆがんだ。

 黒い何かが、そこに淀む。


「えっ……!?」


 俺は驚きに目を見開いた。


 ラグディアの前方に出現し、展開されたもの。

 それは赤い文様に彩られた黒い魔法陣だったのだ。


「まさか、それは──俺と同じ【ブラックホール】!?」


     ※


「まさか、それは──俺と同じ【ブラックホール】!?」

「ふふっ、驚いたかな?」


 ラグディアは驚くマグナを見て、にっこりと笑みを浮かべた。


 ──皇帝によって、このスキルを完成させたときのことを思い返す。


 ラグディアに発現したのは【触手】のスキルである。

 なぜこんな能力が目覚めたのかは分からない。

 自分の中に埋めこまれている魔族やモンスターの細胞の影響なのか、それともまったく未知の現象なのか。


 ただ、理由などはどうでもよかった。

【触手】は強力な格闘スキルだが、それだけにとどまらない。

 レベルを上げることで、さらなる別のスキルを目覚めさせた。


 それが【緊急避難】だ。


 いかなる攻撃を受けても、その瞬間に自動で発動。

 ラグディアを攻撃圏外へと瞬間移動させられるスキルだ。


 ただ、これだけではマグナの【ブラックホール】には対抗できない。

【緊急避難】スキルでは【ブラックホール】の吸引は防げても、こちらからの攻撃もマグナにはいっさい届かない。


 そこで皇帝は、ベアトリーチェを利用した。


 彼女の奇蹟兵装サマエルは『空間操作』能力を備えている。


 その彼女をラグディアの触手内に封じこめ、二つの能力が合わさったことで──ラグディア版の【ブラックホール】が完成したのだ。

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