2 虚空の封環VS帝国軍
俺はキャロル、エルザとともに遺跡から地上に出た。
派手に陽動をする、と言ったものの、どうすればいいかな。
考えつつ、とりあえず帝都内を進む。
が──考えるまでもなく、向こうからおあつらえ向きのシチュエーションがやって来てくれた。
おおおおおおおおおおおおおおっ!
前方から鬨の声が響く。
盛大な土煙が上がっていた。
目を凝らすと、帝国の騎馬兵団がこちらに押し寄せてくる。
距離はまだ一キロ以上離れているが、敵の数が五千を超えていそうなことは確認できた。
「い、いきなり大軍団出現なのです」
「こっちは三人だっていうのに……いくらなんでも多すぎでしょう」
キャロルとエルザが震えている。
「冒険者マグナ・クラウド! 皇帝陛下から直々に討伐命令が出ている!」
奴らは俺から一キロ以上離れた場所で止まり、声を張り上げた。
この距離で聞こえるのは、声を遠くまで届かせる魔法道具でも使っているんだろう。
「お前の動向は帝都に入ったときから監視している! この区域の周囲をすべて囲んだ! お前に逃げ場はない!」
言われてみれば、帝国兵たちが一キロほどの距離を開け、俺たちがいる場所を取り囲んでいるような気配があった。
いったい何万の兵士が来ているんだろう。
俺一人を抑えるために、ここまで──。
「二人は下がっていてくれ」
俺は前に出た。
「見せてやる。修行の成果ってやつを」
告げて、集中を高めた。
語りかける。
俺の、内部に。
スキル【ブラックホール】そのものに。
「俺は人を傷つけることなく無力化したい。力を貸してくれ」
『虚空の領域』での戦いと同じように。
『詳細設定モードを開始します』
俺の意思に応え、中空に【ブラックホール】からのメッセージが表示された。
さっそく『詳細設定』を行う。
射程距離:1000メートル。
吸引対象:術者への攻撃、その攻撃者の武具。
吸引対象・追記事項1:攻撃者自身を対象から除外。
吸引対象・追記事項2:攻撃者自身の肉体での攻撃には、スキル効果を『反転』させて使用。
吸引対象・追記事項3:スキル効果『反転』は相手を殺傷しない程度に威力を減じて発動。
敵兵士を吸いこまずに、彼らの武器だけを吸引。
攻撃は一律で『反発』。
敵を傷つけず、とにかく無力化することを最優先する──。
それが、俺の意思だ。
ヴ……ン。
前方に展開した黒い魔法陣──【ブラックホール】が低くうなるような振動音を立てる。
次の瞬間、
しゅおんっ……!
「な、なんだ!?」
「剣だけが──引っ張られ……くううっ!?」
1000メートル圏内に入った敵兵士たちがいっせいに驚きの声を上げた。
彼らの持つ武器がすべて黒い魔法陣内に吸いこまれたのだ。
しゅおんっ!
しゅおんっ!
しゅおんっ……!
射程内に入ったすべての兵士が同じ目に遭った。
それでも彼らは止まらない。
騎馬に乗ったまま、近づいてくる。
「相手はたった一人だ。剣などなくても!」
「何もかもを吸いこむ力を持っていると聞いていたが、剣だけとはな!」
「素手で十分よ!」
兵士たちが気勢を上げる。
すごいスピードで四方から俺に迫る。
そして──。
「くおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁっ!?」
帝国兵士たちは驚きの声を上げながら、吹っ飛んでいった。
さながら、目に見えない透明のバネにでも跳ね返されたかのように。
【ブラックホール】のスキル効果を『吸引』から『反転』させたからだ。
これで素手の格闘を挑んでこられても、誰も俺に近づけない。
スキルの射程圏内に入った途端、吹っ飛ばす。
こうして帝国兵たちは一人残らず武器を失い、何度も吹っ飛ばされて地面にのびていた。
「し、信じられん、こんなあっけなく我が軍が……」
「こ、これは戦争だぞ……あり得ない、こんな馬鹿なことが……」
「武器がなくては、どうにもならん……くううう……」
驚くもの。
呆然とするもの。
嘆くもの。
帝国軍の反応は様々だったが、いずれも戦うすべを失い、その場に崩れ落ちた。
完全に戦意を失ったようだ。





