5 レムフィール王国へ
二週間後、俺とキャロル、エルザはレムフィール王国に招待された。
シャーリーの言葉通り、この間のモンスター退治で王様から褒賞が出るらしい。
「王様からのご褒美ってことなのです?」
「まあ、そんな感じだろう。たぶん」
生まれてこの方、褒賞なんてもらったことないからな。
「さすがマグナさんなのです」
キャロルは嬉しそうだった。
「そのお金で美味しいもの食べましょうね」
エルザも嬉しそうだけど、おごってもらう気満々らしい。
まあ、いいか。
俺は内心で苦笑する。
ラムド王国からレムフィール王国の王都までは、おおよそ半日の旅路だ。
王都に到着すると、シャーリーが出迎えてくれた。
「久しぶりね、三人とも」
長い緑色の髪をたなびかせ、微笑む彼女はやっぱり美人だ。
天馬には乗っていないけど、あのときと同じ銀の甲冑に緑の外套姿だった。
「ようこそお越しくださいました、マグナさん」
その後ろには、男女取り混ぜて七人の騎士たち。
彼らもあのとき巨大イカと戦ったメンバーだった。
俺を見る目がキラキラしている。
そういえば、あのときは英雄扱いだったもんな。
ちょっと面映ゆかった。
「王宮まであたしが案内するね。キャロルさんとエルザさんもマグナくんの同行者ということで、客人扱いで入れるように手続しておいたから」
「ありがとう、シャーリー」
「せっかく来てもらったんだもの。二人も王宮でお祝いしたいでしょ」
にっこりと告げるシャーリー。
「感謝なのです」
「礼を言うわ」
キャロルとエルザがシャーリーに一礼する。
俺たちはシャーリーに案内され、王宮にやって来た。
さすがに大国レムフィールの宮殿だけあって、息をのむほどの壮麗さだ。
正門を通り、巨大なホール状の場所に出ると、
「ほう、君が噂のマグナ・クラウドくんか」
背後から突然声をかけられた。
振り返ると、小柄な老人がニコニコ笑顔で俺を見ている。
長い白髪に白いヒゲ。
道着のような衣装に軽装鎧を身に着けている。
腰に下げているのは二本の小剣だ。
「ヴルム師ではありませんか。ご到着でしたか」
シャーリーが恭しく一礼した。
「ヴルム……? って、まさか」
「ええ、SSSランク冒険者、『炎竜殺し』のヴルム師よ」
驚く俺に、シャーリーが紹介した。
「……有名な人なのです?」
キャロルが俺に耳打ちする。
冒険者の情報には、まだまだ疎いのだ。
「めちゃくちゃ有名な冒険者だ」
俺はざっくりと説明した。
……ざっくりすぎたかもしれない。
SSSランク冒険者、『炎竜殺し』のヴルム。
齢七十を超える老人でありながら、その剣腕は未だ衰え知らず。
彼の二つ名は、三十年ほど前に最強レベルである第二階位の竜種『閃王竜』をたった一人で撃破したことに由来している。
第二階位の竜種は『ジルの眷属』とも呼ばれ、神話にしか登場しない第一階位の竜種『ガの眷属』を除けば、地上最強の竜種である。
まさしく最強モンスターだ。
大国の軍が総がかりでも討てるかどうかは分からない……と言われる第二階位竜種と一人で戦ったのだから、その実力は計り知れない。
と、
「あなたが噂のマグナ・クラウドか?」
さっきと似たような台詞で、ふたたび背後から声をかけられた。
振り返ると、一人の少女が立っている。
年齢は俺よりずっと下──まだ十代半ばくらいじゃないだろうか。
ツインテールにした紫色の髪、同色の瞳がクールな印象の美貌によく映える。
細身の体に、白いワンピースのような衣服を着ていた。
「ブリジット。君もいたのか」
「ああ。さっき着いたんだ」
シャーリーの言葉に、淡々とした口調で答える少女──ブリジット。
ん、ブリジットって、もしかして……?
「『魔弾の射手』ブリジット。彼女もSSSランク冒険者だから、名前くらいは知っているでしょ」
シャーリーが言った。
「なんでSSSランクが二人もここに……?」
俺の方は驚きっぱなしだった。
大陸全土で十数人しかいない最上位冒険者が二人もそろうなんて。
「依頼じゃよ」
「同じく」
ヴルムさんとブリジットが同時に答えた。
「依頼……?」
「そう、レムフィール王国からの、ね」
と、シャーリー。
なるほど、SSSランク冒険者ともなれば国から直接依頼を受けるレベルなのか。
「君も一緒に戦うのかな、マグナくん?」
「戦う?」
ヴルムさんの問いに首をかしげる俺。
「まもなくレムフィールで大きな戦いが起きる。ワシやブリジット嬢が呼ばれたのは、その力になるためじゃ」
戦い……?
「帝国が攻めてくる、という話なんだ」
ブリジットが言った。
「邪教を信奉する悪しき存在──ヴェルフ帝国が」





