8 魔軍長たちの奮闘
さあ、決戦だ──。
魔王はステラとともに巨大な竜に乗り、天軍兵器の下へと向かった。
俺はジュダやリーガルとともにそれを追いかける。
ジュダが飛行魔法の制御をおこないつつ、天軍兵器が張り巡らせている次元空間の防御壁を解析する。
近づくまでの間に敵が撃ってきた攻撃は、リーガルが迎撃──。
と言いたいところだけど、
しゅおんっ……!
「これは──」
「何だと……!?」
ジュダとリーガルが同時に驚きの声を上げた。
攻撃のすべては俺たちに近づく前に【ブラックホール】によって吸いこまれ、消えてしまったのだ。
これなら、リーガルの護衛はいらなかったかもしれない……なんとなく言い出せなかったけど。
「いや、これならリーガルくんは必要なさそうだね」
と、ジュダ。
「君はゼガートの下に行って、彼とともに戦いの余波が魔界に被害を及ぼさないように迎撃をお願いするよ」
「全体の戦力配分を見ると、それがよさそうだな」
リーガルはうなずき、俺たちから離れていく。
去り際にこちらを振り返り、
「……人間にしては大した力だ」
つぶやき、今度こそ去っていく。
「あはは、リーガルくんは人間嫌いだからね。でも強さは強さで認める度量を持っているよ」
ジュダが笑う。
「さあ、私たちは私たちで役割を果たそうか」
「ああ、頼む」
俺はジュダとともに、飛行魔法で天軍兵器の下へ一直線に向かう。
「汝らは、我に近づくことさえできぬ──消えよ」
天軍兵器は神気をチャージしつつ、散発的な攻撃を放ってきた。
たぶん牽制程度の光弾なんだろうけど、それでも一発一発に町を跡形もなく吹き飛ばせるくらいの火力がありそうだ。
「まともに着弾したら、王都ごと吹っ飛ばされそうね……それなら!」
フェリアと呼ばれた女魔族が右手を掲げた。
まばゆい輝きとともに、光弾があさっての方向へと飛んでいく。
防御魔法の一種だろうか。
「いや、あれは精神魔術の奥義だよ」
ジュダが解説した。
「フェリアは最上位の夢魔なんだ。天軍兵器を精神魔術で幻惑して、攻撃の狙いを外させたんだ」
なるほど、さすがは魔王の側近である魔軍長だ。
「だけど、長くはもたないだろう。あれを続ければ、いずれは種がバレる。そうなれば、天軍兵器は対策して、別種の攻撃を放ってくる。それに──」
狙いが外れた光弾のいくつかが、遠くの山に当たり、跡形もなく吹き飛ばした。
「ふう、さすがに疲れるわね……」
つぶやくフェリア。
その顔色が青い。
精神魔術を連発して消耗したんだろう。
「あたしが治します~」
と、狐耳の少女魔族──どことなくキャロルに似た顔立ちだ──が、フェリアに手をかざした。
治癒魔法だろうか、フェリアの顔色がよくなった。
「ありがとう、オリヴィエ!」
ふたたび精神魔術で天軍兵器を幻惑する夢魔。
だが、それでも光弾のいくつかは王都に降り注ぐ。
精神魔術だけではすべての狙いを外せないんだろう。
それだけ、天軍兵器の力が強大だということか……。
と、
「儂がいるかぎり、王都には落とさせんぞ」
獅子の獣人──ゼガートが地を蹴り、大きく跳び上がった。
空中の光弾を拳ひとつで吹き飛ばす。
「俺は自分の役割を果たすまで──」
別の場所では、リーガルが剣を振り回して瘴気の斬撃波を放っていた。
光弾は次々と二人によって撃ち落とされていく。
攻撃の余波は魔軍長たちに任せて大丈夫そうだ。
俺の【ブラックホール】の射程内に入ったものは全部吸いこんでいるけど、範囲外への攻撃も多い。
彼ら魔軍長を信じつつ、俺はジュダとともに天軍兵器へとさらに接近する。
「魔王くんの攻撃が始まるよ」
ジュダが前方を指示した。
……っていうか『魔王くん』って。
そんな呼び方で大丈夫なのか?
ちょっと心配になってしまう。
まあ、あの魔王はあんまりそういうのを咎めなさそうな雰囲気はあったが……。
と、俺の前方に映像が浮かび上がった。
「人間の視力じゃ、はっきり見えないでしょ? 映像魔術で中継するよ」
ジュダが言った。
飛行魔法を制御しつつ、天軍兵器が張り巡らせた次元防御を解析しつつ、片手間でこんなこともできるのか。
感心しつつ、俺は前方の映像を見つめる。
全長100メートルをはるかに超える巨大な『超光の王』に、竜に乗ったフリードがステラとともに対峙している。
「消し飛ばしてやるぞ、魔王」
「やれるものならやってみろ」
魔王は『超光の王』を前にしても、まったくひるまない。
泰然と、悠然と、敢然と。
まさに王の風格だった。





