5 過去と現在からの襲来2
空の一角が、割れた。
そこから巨大な影が現れる。
全部で、三体。
「あれは──?」
見覚えのあるシルエットだった。
黄金に輝く鳥。
九つの頭を持つ蛇。
全身が土でできた巨大な竜。
「ひえええ……」
「あいつら、前に倒したわよね……!?」
おびえるキャロルと戦慄するエルザ。
そう、奴らは以前に戦った神の兵器──『天想機王』だ。
鳥型が『雷の王』。
蛇型が『氷の王』。
そして竜型は『土の王』。
「『天想覇王』に似ている……あれも天軍兵器なのか?」
「文献で見たことがあります。おそらく『天想覇王』と同種の兵器、『天想機王』でしょう」
訝しげな魔王にステラが解説する。
「また来るのです~!」
キャロルが上空を指さした。
その言葉が終わらないうちに、ふたたび天が割れる。
黒い空に亀裂が走り、内側から光が差しこんだ。
光が、獅子、鳥、竜へと姿を変える。
「今度は『天想覇王』か……!」
フリードがつぶやいた。
「奴らは以前、魔界を襲ったことがある。俺と魔軍長の総がかりで破壊したはずなんだが──どうやったのか、復活してきたらしい」
と、俺たちに説明する。
「異空間に放逐された我らが、なぜここに……」
『天想機王』たちがつぶやいた。
「破壊された我らが、なぜここに……」
『天想覇王』たちが周囲を見回す。
「魔王と冒険者……二人の運命超越者か」
六体がいっせいに俺と魔王を見た。
「なるほど。汝らの力が干渉し、時空に歪みが生じたのだな」
「我らにとっては好機」
「せっかく生還したこの期は逃さん」
「忌まわしき魔族の世界──今度こそ滅ぼしてくれよう」
兵器たちは物騒な台詞をつぶやきまくっていた。
「魔界を滅ぼす? そうはさせん」
フリードが前に出る。
「俺がいる限りは、な」
その全身から黒く輝く魔力が立ち上った。
「っ……!」
すさまじい、という言葉すらなまぬるい威圧感。
さっきまでの穏やかなフリードは、そこにはいない。
敵であれば、すべてを滅ぼし、打ち倒す──。
そんな強烈な意思をまとった、魔王の威圧感だった。
「あらゆるものを吸引する無敵のスキル──近づくには、あまりにも脅威」
「あらゆるものを打ち倒す最強の魔力──近づくには、あまりにも脅威」
六体が謳うように告げた。
「ならば、汝らの攻撃が及ばぬ場所から一方的に殲滅してくれよう」
言うなり、奴らは猛スピードで俺たちから遠ざかっていった。
とんでもないスピードで空の彼方まで去っていく。
「奴らとの距離はおおよそ十キロ。超長距離砲撃の構えです!」
ステラが叫んだ。
「今、映像を出します」
彼女の額に第三の瞳が出現する。
その眼光が、中空に映像を作り出した。
黄金の怪鳥、九頭の蛇、土の竜。
炎の獅子、風の鳥、水の竜。
六体の天軍兵器が空中に浮かび、全身からまばゆいオーラを放っていた。
「俺の魔法の射程外から攻撃してくるつもりか。前回の敗北で学習したわけだ……」
フリードがつぶやく。
「吹き飛べ」
六体がいっせいに告げた。
奴らがまとったオーラが無数の光弾と化して放たれる。
「ちいっ、『メガファイア』!」
魔王が右手を突き出した。
真紅の火球が撃ち出され、まっすぐ進んでいく。
空一面が、真紅に染まった。
続いて、空中で連鎖的に爆発が起きる。
魔王の放った火球が無数の光弾を飲みこみ、すべて吹き飛ばしたのだ。
さすがに魔王だけあって、すさまじい威力の破壊呪文である。
「これは……!」
エルザが呆然とつぶやく。
「まさか伝説の最強火炎呪文──『灼天の火焔』……!?」
「奴らは神気を充填中。第二弾、すぐに来ます」
ステラが警告した。
「このままじゃキリがない……いずれ防ぎきれなくなるな」
フリードがうめいた。
俺の【ブラックホール】なら、射程内に入れば全機を吸いこんで倒せるだろう。
けど、距離が遠すぎる。
どうする──。





