2 虚空の封環と史上最強の魔王2
「奇蹟兵装……? 勇者の武器がどうして──」
「たぶん魔族との戦いで置き去りにされたんじゃないかしら。自律型の奇蹟兵装は単独の意思で敵を駆逐するんだけど、今は私たちがその敵として認定されているみたい。機能が暴走しているのか、あるいは……」
「敵認定、って」
なんで勇者の武器から敵扱いされなきゃいけないんだ。
俺たちは魔族でもなんでもないんだぞ。
納得いかない心地で、近づいてくる巨大な鋼鉄の獣を見据えた。
全長は二十メートル近くあり、とんでもない迫力だ。
並の魔族なら一瞬で粉砕しそうな威圧感。
「ひえええ……ちょっと怖いのです」
おびえたようにキャロルの尻尾が、びくん、と跳ねた。
「問題ない」
俺は【ブラックホール】を展開した。
しゅおんっ!
獣型の奇蹟兵装は一瞬にして黒い魔法陣の中に吸いこまれ、消えた。
「……勇者の武器を倒してしまってよかったんだろうか」
ちょっとだけ不安になる。
「正当防衛よ。大丈夫でしょ」
エルザが微笑んだ。
「なのです」
キャロルがうなずく。
「だな。とりあえず……出口を探すか」
俺たちは突然迷いこんだ魔界を進み始めた。
俺たちは魔界を進んでいた。
現在は深い森の中である。
どこから魔物や魔族が出てくるとも分からない。
まあ【ブラックホール】があるから、不意打ちが来ようと問題なく処理できるはずだが。
「それにしても暗いな……キャロルはよく平気で歩けるな」
先頭をスイスイ歩くキャロルに感心した。
俺やエルザはまだ目が慣れなくて、足下が若干おぼつかないのだ。
「えへへ、あたしは獣人なので夜目が効くのです」
「便利ね……こういうときに羨ましいわ」
「えっへん」
エルザのつぶやきに、キャロルが得意げに胸を張った。
「そうだ、出口らしきものは見当たらないか、キャロル?」
念のためにたずねてみる。
そもそも、なんで俺たちは魔界に迷いこんだのかも謎だ。
「特に何も見えないのです。ずーっと森が続いて……あ、そろそろ森を抜けますよ」
言葉通り、ほどなくして俺たちは森を出た。
そこから先は街道だ。
さらに先には大きな町が見える。
町というより、都といった方がよさそうな雰囲気。
中心部には城がそびえていた。
壮大なスケールの城である。
王城と言われても納得がいくほどの。
もしかしたら、魔界の王都だろうか?
ただ、その城は──、
「わぁ……大きなお城なのです」
キャロルがつぶやいた。
「でも、ボロボロなのです」
そう、その城は半ば以上崩れかかっていた。
まるで、激しい戦いの爪痕のように。
「たぶん、魔界の王城なのです。子どものころにちょっとだけ見たことがあるのです」
と、キャロル。
「ただ……そのときは、こんなボロボロじゃなかったのです……」
一体、何があったんだろう?
と──、
「魔王様、こちらです」
「彼らか」
上空から、声がした。
一人は黒いローブをまとった男。
禍々しい仮面をつけていて、鋭い眼光が俺たちを見据えていた。
もう一人は銀髪の美しい少女。
男に寄り添うようにして立っている。
……っていうか、彼女は男のことを『魔王様』って呼んだような。
「……確かに、魔王様って呼んでたのです」
俺の内心のつぶやきに同意するように、キャロルが言った。
「じゃあ、あいつが魔王エストラーム……!?」
エルザが顔を引きつらせた。
伝説の魔王エストラーム、か。
あらゆる魔導を極め、その呪文は天を割り、地を砕くほどだという。
「いや、ちょっと違う感じだぞ……?」
俺はふと違和感を覚えた。





