16 二人の運命超越者1
響き渡る無数の金属音と打突音。
ルネが剣で斬りかかり、ラグディアは三本の触手を繰り出して応戦する。
二人は超スピードで移動しつつ、激しい攻防を繰り広げる。
すさまじい戦いだった。
【ブラックホール】が使えない今の俺では、巻き添えを食えば、絶対死ぬ。
ルネもそれを分かっているのか、ラグディアを俺から遠ざけるようにして、戦闘位置を少しずつズラしていった。
ほどなくして、彼らの交戦場所は二十メートルくらい先まで移動する。
「王よ……」
苦しげな息の下で、フレアが上体を起こした。
「大丈夫か、フレア!」
「まだ自己修復の最中ですが、会話くらいならばどうにか……」
自己修復……か。
見れば、フレアの豊かな胸の谷間に淡い光があふれている。
血の染みが少しずつ薄れていく。
あらためて、彼女が人間ではなく別の存在なのだと気づいた。
とりあえず致命傷ではなさそうで、ホッとする。
そもそも、彼女に生物のような『命』があるのかどうかさえ、定かじゃないが……。
「とはいえ、かなりの損傷を受けてしまいました。もう少し修復が進むまで、彼らを元の場所へ強制送還することもできません」
「それまでは──ルネに踏ん張ってもらうしかない、か」
他力本願なのが歯がゆい。
……いや、俺にだってやれることはあるぞ。
ふと気づいた。
「フレア、ここで待っていてくれ」
「王よ、どこへ?」
「ルネに加勢する」
俺は彼らの下へ歩み出した。
せっかくルネが気遣ってくれたけど、やっぱり行かないとな。
と、そのとき俺は違和感を覚えた。
「なんだ……!?」
目の前が、揺らいでいる。
いや、目の前だけじゃない。
空も、地面も──灰色一色のこの世界が、陽炎のように揺らめいているのだ。
何かが、おかしい。
不審に思いつつも、俺は歩みを進めた。
今はまず、ルネに助力することが先決だ──。
ほどなくして戦場にたどり着いた。
「ちいっ、一撃ごとに速くなりやがる!」
「はははは、僕はどこまでも成長するんだ。君だって訓練でよく知っているだろうに」
もはや残像さえ見えない超速で繰り出される触手を、ルネは大剣を振り回してなんとか防いでいる。
俺にはまったく見えない攻撃も、ルネの目には見えているのか。
それとも予測や野生のカンの類なのか。
どちらにせよ、驚くべき剣技だった。
「僕の邪魔をするなら容赦はしないよ。君のことは気に入っているけど、それはそれだ」
「へっ、上等だ!」
強気にルネが吠えるが、明らかに追い詰められていた。
俺には二人の攻防を視認することさえ困難だ。
だけど、触手の攻撃がさらに加速していることは、なんとなく雰囲気で分かった。
ルネが、次第に凌ぎきれなくなっていることも。
「くそっ、今までとは成長のスピードが……!?」
「僕も驚いてるんだよ。あるいは本物の『運命超越者』に出会えた影響かもね」
焦るルネと笑うラグディア。
「彼に呼応して、僕の力も上がっている。さあ、そろそろ終わりにするよ!」
ラグディアが叫ぶ。
とどめを刺すべく最終攻撃に移ろうというんだろう。
今だ──。
俺はラグディアの意識が完全にルネだけに向かったその瞬間を狙い、スキルを発動させた。
ただし──【ブラックホール】のスキルじゃない。
「【落とし穴】!」
俺が本来持っていたスキル、【落とし穴】のほうだった。
ラグディアの足元が一メートルほど沈みこむ。
「えっ……!?」
奴がわずかにバランスを崩した。
本来のラグディアなら、これくらいの不意打ちには反応できたのかもしれない。
だけど、ルネという超絶の剣士との戦いでは、さすがの奴も注意や反応のほぼすべてをルネに向けるしかない。
俺のことをまったく意識しない──意識できなくなるくらいに。
だから、不意をつけるチャンスがあった。
もちろん、一回きりのチャンスだ。
種が割れれば、もう通用しない。
だが、その一回が千金の価値を生む。
「助かったぜ、マグナ!」
ルネは床をもう一度蹴って、さらに加速した。
大剣を掲げ、吠える。
「そして終わりだ、ラグディア!」





