4 帰途と胎動
※実験的にサブタイトルを少しいじりましたん(´・ω・`) しっくりこなければ、また戻すかも戻さないかも。
「じゃあ、あらためて。モンスターを倒してくれてありがとう、マグナくん」
シャーリーが俺に向かって一礼した。
「天馬騎士団団長として、礼を言わせてもらうね。きっとレムフィール王国から褒賞が出るはずよ」
「褒賞?」
「今回のモンスターはかなりの脅威と目されていたから、君の功績はすごく大きいのよ、マグナくん。このクラスの戦績なら、王様から確実に褒賞が出ると思うの」
と、シャーリー。
王さまからの褒賞……か。
俺の人生で、そんなものがもらえるなんて想像もしたことなかったな。
「ああ、放置していたら、我が国の漁業にどれだけの被害が出たか」
「素晴らしい働き、心から敬意を払わせてもらう」
「いや、英雄だよ、君は」
他の天馬騎士たちも俺をベタ褒めだ。
「あ、ははは……」
正直、ずっと最底辺の冒険者をやってたから、こんなふうに褒められるとどういう表情をしていいか分からない。
とにかく褒められ慣れてないのだ、俺は。
「正式なことが決まり次第、君に伝えたいの。よかったら、連絡先を教えてくれない?」
「俺は普段、ラムド王国のアルトタウンにいるよ。キャロルやエルザも一緒だ」
と、俺が拠点にしている町の名を伝える。
「その……褒賞って、キャロルやエルザももらえるのかな?」
「うーん……決めるのは王様だけど、モンスターを倒したのはマグナくんだし、君一人だけじゃないかな?」
「そっか……」
「でも褒賞を受け取るときに王都へ来る分には、三人一緒でいいんじゃない? あたしたちの騎士団にもぜひ遊びに来て」
シャーリーがにっこりとほほ笑んだ。
「そうだな。そうさせてもらうよ」
こうして。
海水浴でトラブルに巻きこまれつつも、おおむね楽しい時間を俺たちは過ごすことができた。
町に戻ったら、また仕事をがんばろう──。
町に戻ってから五日が過ぎた。
あいかわらず俺たちはクエストを引き受けては、【ブラックホール】で瞬殺、といういつもの日々を送っている。
その日の夜のことだった。
「『盾』を発動できるようになった?」
「え、ええ、まだちょっと……自信がないんだけど」
エルザが俺たちに言った。
「よかったら、見てくれない?」
「ああ、いいぞ」
「楽しみなのです」
「あわわ……あ、あんまり期待しないで。緊張するから」
俺たちは定宿の中庭に出た。
「じゃあ、行くわね」
エルザが神の武具──『スヴェル』を構える。
白く輝く美しい盾だ。
奇蹟兵装。
神の力を宿し、特殊な素質者である『勇者』にしか操ることができない、神秘の武具──。
エルザの話では、奇蹟兵装には九つのランクがあり、彼女が持っているのは最下級なんだとか。
それでも『心の強さ』を高めれば、『三分だけ無敵の防御力を誇る』エネルギーの盾を生み出せるということだった。
彼女はその精神力が足りず、いまだその力を発動できないんだけど──。
「奇蹟兵装『スヴェル』、スキル発動──『聖なる障壁』!」
盾から青白い輝きがあふれた。
「すべてを守る力を!」
エルザが凛と叫ぶ。
盾が発する青白い輝きは、美しい真紅へと変化した。
「おお……!」
「これは──」
俺とキャロルは同時に息をのんだ。
このままだとスキルの効果が分からないので、俺は事前の手はず通りに剣を構えた。
スキル【ブラックホール】を身に着ける前に愛用していた剣だ。
エルザに向かって剣を振り上げる。
「せーのっ」
彼女に当たらないくらいの距離から、剣を振り下ろした。
がきん!
重い衝撃が両手に走る。
盾が展開している赤い輝きに阻まれ、俺の斬撃は簡単に跳ね返された。
さらに二度、三度。
何回やっても、赤いエネルギーフィールドはビクともしない。
少なくとも、以前ダークメイガスとの戦いで紙装甲状態だった防御スキルとは、全然違う。
「ふうっ……」
エルザは大きく息を吐き出し、盾を下した。
赤い輝きが消えうせる。
ちょうど一分くらいか。
「今はまだこれくらいだけど、どうかしら?」
「すごいな。いつの間に──」
「私だって、いつまでもマグナにくっついてばかりじゃないのよ。なんといっても、いずれは史上最強の勇者になるんだから!」
エルザが胸を張って叫ぶ。
初めて会ったときの、強気で勝気な表情だ。
うん、やっぱりこういうエルザの方が生き生きしていていいな。
自然な感じがする。
「いつも一人でクエストをこなしてしまうあなたを見ていると、私ももっとがんばらないと……って、それで自分なりに練習していたら、最近やっと形になってきたのよ」
「お前もがんばってたんだな」
「すごいのです、エルザさん!」
「おーっほっほ!」
俺たちの賛辞に、エルザは得意げな高笑いをした。
※
轟く雷鳴の中でたたずむ巨大な城、その最深部──。
「『超魔獣兵』の試作型が殺された……」
謁見の間に苦々しい声が響いた。
声の主は、魔術師を思わせる漆黒のローブとフードを身に着けた壮年の男──この国の皇帝である。
「ほう?」
「試作型といえば、レムフィール王国の『蒼の海』に放った例の……?」
側近たちがたずねた。
「そうだ」
皇帝は静かにうなずいた。
「『海王魔獣』……通常のクラーケンの数百倍の耐久力を備えたあれが、一瞬にして消滅した」
試作型とはいえ、超古代の禁術で生み出した超魔獣兵は、上位魔族や上位竜族にも匹敵する戦闘能力を備えているのだ。
それが、やすやすと撃破された。
帝国がこれから仕掛けようとしている大規模侵攻の、切り札が──。
見逃せない事態だった。
「一体、何者だ」
皇帝がうなる。
フードの奥で、赤い目が瞬いた。





