11 闇の剣士VS虚空の封環3
「さあ、来い。ルネ!」
「なら、お望み通り──行くぜ!」
ルネは大剣を掲げ、突進してきた。
そのスピードはまさしく神速。
いや、魔族だから魔速とでもいうべきか。
重い大剣や全身鎧を身に着けているのが信じられないほどのスピードで、一瞬にして俺に肉薄する。
「受けろ、これが俺の封神斬術!」
大剣を真っ向からたたきつけるルネ。
その寸前、俺の前面に黒い魔法陣が浮かび上がった。
「!?」
しゅおんっ……!
大剣がルネの手から離れ、魔法陣に──【ブラックホール】に吸いこまれる。
「──ちいっ」
ルネは即座に側面に回りこんだ。
胸元のナイフを抜き、放つ。
銀の軌跡を描いて俺に迫ったそれらは──、
しゅおんっ!
やはり、【ブラックホール】に吸いこまれる。
「武器だけが──吸引されるだと!?」
「これでお前の得物はなくなったな、ルネ」
「──舐めるなよっ」
ルネはふたたび突進してきた。
「武器がないなら、俺自身の手でお前を打ち砕く!」
拳を振り上げて殴りかかってくる。
やはり、そう来たか。
だけどそれも想定済みだ。
相手を殺傷することなく、攻撃力を奪い、攻撃を完封する──。
それが、俺が身に着けるべき新たなスキル形態。
俺に打ちこまれようとした拳は、俺の前面に現れた【ブラックホール】に吸い寄せられ、
「くっ!? うおおおおおおっ!?」
まるでばね仕掛けのように、ルネの体を大きく吹き飛ばす。
「がはっ!」
地面に背中からたたきつけられ、うめくルネ。
うーん……ちょっと勢いが強いか?
「なんだ、今のは──」
ルネは痛そうに顔をしかめながら起き上がった。
「お前のスキルは『吸いこむ』ことじゃなかったのか……」
「基本設定は、な。だけど今回は色々と弄ってみた」
俺はニヤリと笑う。
中空に、設定画面が出現した。
射程距離:1000メートル。
吸引対象:術者への攻撃、その攻撃者の武具。
吸引対象・追記事項1:攻撃者自身を対象から除外。
吸引対象・追記事項2:攻撃者自身の肉体での攻撃には、スキル効果を『反転』させて使用。
吸引対象・追記事項3:スキル効果『反転』は相手を殺傷しない程度に威力を減じて発動。
さっき俺が設定し直した、新たな【ブラックホール】のスキル効果一覧だ。
「効果を……反転?」
ルネが呆然とつぶやく。
「【ブラックホール】のスキル効果は対象を『吸いこむ』こと。だけど、それじゃ問答無用で倒しちゃうからな。攻撃者に対しては、『吸いこみ』の逆──『吹っ飛ばし』を発動することにした。相手を殺したり、傷つけない程度に威力を抑えて、な」
「そこまで細かい制御ができるようになったとは。さすがは王です」
フレアが満足げに笑う。
「なるほど。相手を傷つけずに無力化する──それがお前の目指す戦い方か」
ふうっと息を吐き出すルネ。
拳法のような構えを取り、じりじりと俺に近づいてくる。
「剣を失っても、まだ戦うつもりか」
「当たり前だ。せっかく『最強』に手合せしてもらっているのに、簡単に諦めてたまるかよ!」
ルネが吠えた。
「俺は最強の魔族になる……必ずなる! そのために、お前は超えるべき壁なんだ!」
咆哮とともに、その姿がブレる。
「だから今──ここで超えてやる!」
いや、残像が生じるほどの超速移動か。
どこだ……?
俺は周囲を見回した。
ときどき黒い人影が見えたと思ったら、また消える。
速すぎて俺の目じゃ全然捉えられない。
「へえ、また速くなってる──本当に、わずかな戦いでも成長するねー、ルネくんは」
ラグディアが気楽な調子で笑った。
「まさに戦いの申し子って感じだよ」
「確かに──ダークブレイダーの能力限界をあまりにも超えすぎています。あるいは、すでに魔軍長クラスにまで達しているかもしれません……!」
フレアがうめく。
魔軍長──魔王の側近を務める最強の七魔族。
それに比肩するほどの実力を、ルネは秘めているっていうのか。
「これくらいでひるんでるんじゃねーよ、『最強』さんよ! 俺の前に立ちはだかる壁であってみせろ!」
叫び声とともに、ルネが出現した。
俺の前方、数メートルに。
両手を伸ばし、まるで剣のように掲げて──。
「さあ、これが最後の、そして今俺ができる最強最大の攻撃だ! お前が『最強』の名にふさわしい存在なら、受け切ってみせろ!」
文字通り、最後の攻防になりそうだった。





