10 闇の剣士VS虚空の封環2
俺は効果範囲や吸引対象などを細かく調整していった。
項目によって調整不可なものもあったけど、スキルが成長すれば、この辺も弄ることができるようになるんだろうか。
ともあれ──おおむね、考え通りのスキル設定に変えることができたはずだ。
「そろそろ準備はできたか?」
ルネがたずねた。
大剣を肩に担ぎ、攻撃的な笑みを浮かべている。
「こっちは戦いたくてウズウズしてるんだ。さあ、早く戦ろうぜ」
「──分かった」
実戦訓練、か。
大丈夫。
俺が傷を負うことはないし、相手に致命的なダメージを与えることもないはずだ。
対人スキルの特訓を、魔族相手にするっていうのも変な感じだけど──。
「レッスンツー開始ですね」
フレアの声とともに、
「じゃあ──行くぞ!」
吠えて、ルネが地を蹴った。
来るか、と一瞬身構えた俺だが、
「えっ……!?」
ルネは俺から猛スピードで遠ざかっていく。
スキルの射程距離に気付いているのか、数秒で、おそらく1000メートルの範囲外まで出たようだ。
とんでもない足の速さである。
「うわー、また速くなったね。僕との訓練でかなりスピードが磨かれたのは知っていたけど」
ラグディアが感心したようにつぶやく。
「ま、逃げるが勝ちってことかな」
「確かに効果範囲外にいられたら、吸いこめないな」
俺はルネが去っていった方向を見つめる。
だけど、あいつだって攻撃はできないはず。
どうするつもりだ──?
思った次の瞬間、銀色の光が見えた。
「あれは!?」
何かが飛んできたと思った瞬間には、【ブラックホール】に吸いこまれ、消える銀光。
さらに二度、三度。
前方から、あるいは側面から、そして背後から。
銀光が次々に飛んできては、【ブラックホール】に吸引されていく。
「ナイフか何かを投げているのか?」
俺は気づいた。
もちろん、それで俺にダメージを与えられるわけがない。
現在の【ブラックホール】は、本来のものと同じく、『俺に対する攻撃』をすべて吸引するように設定してある。
まず俺自身の防御面を万全にすること。
これは当然クリアしているわけだ。
そのうえで、敵を殺さずに無力化する。
こっちが難物だけど──。
「聞こえるか、ルネ! 俺はお前を直接吸引しない! スキルの設定をそう変えた!」
俺は前方に向かって声を張り上げた。
「信じるか? どうだ?」
「へっ、信じるも何も──」
ルネの笑い声がかすかに聞こえた。
これだけの距離を経ていても。
「最強であるお前が、騙し打ちなんて手を使う理由がねえ」
少しずつ、ルネが近づいてくる気配があった。
「けど、疑問はある。お前のスキルはすべてを吸いこむ。魔軍長クラスでさえ、一瞬で倒された。なのに、その強大な制圧能力を捨て去るっていうのかよ」
「……ああ」
「俺に、手加減してるってことか?」
ルネの声に怒りがにじむ。
「そうじゃない」
俺は首を振った。
前方30メートルくらいの場所に、ルネの姿が見えた。
奴のスピードなら、秒単位で間合いを詰められる距離。
「俺はもともと誰かを傷つけ、殺すために力を使いたいとは思わない」
「何?」
「どうして俺にこの力が身に着いたのかは分からない。だけど、俺は最強を目指したわけじゃない。敵を殺すことを望んだわけじゃない」
冒険者としてのクエストや、行きがかり上で戦いになることは何度もあったけれど。
でも、俺が一番望んでいるのは──。
「最強を目指さないやつが、最強か。皮肉なもんだ」
ルネが口の端を釣り上げて笑った。
「けど、俺にとっては超えるべき目標だからな」
「俺はお前を殺さない。お前に殺されることもない」
それが──俺の目指すスキルの最終形態。
この立ち合いで、身に着けてみせる。
俺の望む、俺だけの【虚空の封環】を。
「さあ、来い。ルネ!」





